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正義演出 ブッシュ政権のメディア戦略
どんな不条理にみえる戦争でも、必ず「大義名分」はある。目前に迫ったイラク攻撃の作戦名は「イラクの自由」になりそうだ。フセイン独裁体制を打破し、テロ予防にもつなげる。少なくとも米国民の多くは支持している。だが戦争にプロパガンダはつきものだ。戦争を「正義」に演出するブッシュ政権のメディア戦略を検証した。
■兵士は“スター”攻撃支持率上昇
「ある兵士はテレビを通して子どもたちに『お父さんは悪いやつをやっつけにきたんだ』と話しかけた。『銃撃戦は怖くないが、化学兵器は怖い』と訴える兵士もいた。今、一番、感じるのはテレビで前線の兵士たちの声を伝える番組が増えていること。彼らを孤立させてはいけないというムードが強まっている」
ニューヨーク州在住のフリージャーナリスト油野瑞代氏はそう話す。
バラエティー番組でも既に兵士がスターだ。米国版「スター誕生」といえる人気番組「アメリカン・アイドル」では、現役の海軍兵士が何週も勝ち続け、トップテンに残っている。「開戦となったら、番組と戦場とどちらを選ぶかと問われ、この兵士は『国のために戦います』と答え、さらに人気を集めていた」
米国の世論調査では、イラク攻撃を支持する市民は日を追うごとに増えている。米ABCテレビなどが十日に報じた調査では、イラク攻撃を支持する米国民は59%だったが、十九日に発表した調査では、ブッシュ大統領の「最後通告」後の攻撃支持は71%に跳ね上がっていた。
米国のメディア事情に詳しい明治学院大学の川上和久教授は「こと戦争となると米政府のメディアコントロールは徹底している」と指摘する。「米国の広告代理店は、モノを売るだけではなく、選挙や戦争での世論誘導も当たり前に行っている。選挙PR担当者はそのまま政権入りする。ホワイトハウスそのものが世界最大の広告代理店です」
広告代理店が“暗躍”した例としてよく知られているのが、湾岸戦争の際に、米議会での証言を通じてイラクの残虐さを訴えた「クウェートの少女」だ。
川上教授は「反戦の機運は湾岸戦争の時の方が高かった。クウェートの明確な主権侵害が行われていたにもかかわらず、米国民の半数以上が攻撃に反対していた」と補足する。だが、クウェートから奇跡的に逃れてきたと称する十五歳の少女は「反戦世論」を沈黙させた。湾岸戦争後、少女は駐米大使の娘で、クウェート政府と契約した米・広告代理店のでっちあげだったことが判明している。
前出の油野氏は「今、テレビは連日、フセインの極悪非道ぶりを報じている。例えば、大量破壊兵器を隠匿していることを暴露して、その後に暗殺されたフセインの義弟の生前のインタビューはよく登場している」と説明する。
歴代米政権、中でもブッシュ大統領親子と広告代理店の関係は強い。
世界最大の大手広告代理店「ヒル・アンド・ノートン」の最高経営幹部の一人は、ブッシュ元大統領が副大統領時代、首席補佐官を務め、湾岸戦争当時も最有力ブレーンだった。ブッシュ政権の内情に詳しい国際未来科学研究所の浜田和幸代表は「現政権にも同社ワシントン支社長がスカウトされている」と明かす。
特筆すべきは、世論に危機が生じたときに、広告代理店の人材が登用される点だ。対テロ戦争によりイスラム圏での反米意識が強まった際には、有力広告会社会長だったビアーズ氏が国務次官に迎えられた。
浜田氏は「ペンタゴン(国防総省)は、予算を組んで民間の広告代理店を利用し、政権の政策を応援してくれる大学教授やシンクタンクの研究員を、次々とメディアに登場させた」。
だが、米政権のメディア戦略が最も力を発揮するのは、開戦までの世論づくりではない。戦争が始まってからの報道統制だ。
元新聞記者でベトナム戦争従軍の経験もある上智大学の藤田博司教授は「一九八〇年代に入ってからの戦争で米軍はほとんど従軍取材を認めていない。メディア側からの反発に応える形で、今回は約六百人の従軍記者を受け入れた。開かれたようにみえるが、実質的に報道が規制されるしくみになっている」と指摘する。
取材ルールは厳格で、例えば米海軍では部隊の位置や軍事施設の名前など「公表不可の情報」が十九項目も規定されている。作戦の安全上、一時的な報道差し止めもある。通信が全くできない状態になる。
■ベトナム戦争を教訓に統制強化
さらに藤田教授は「記者は、各現場に分散される。交通や通信手段も軍に頼らざるを得ない状況に加え、兵士らと戦場で“同じ釜の飯”を食べる環境で、どれだけ記者が見たままを伝えられるか。心情的に軍にとって不都合な記事は書きにくい状態に置かれる」。
米軍の報道統制は、ベトナム戦争で、従軍したメディアが残虐な戦争の実態を余すことなく伝えたことにより反戦運動が沸き上がった「反省」による。
■実験場になったグレナダ、パナマ
ベトナム戦争後、シンクタンクが競うように「いかに世論をコントロールするか」を研究した。川上教授は「グレナダ侵攻(八三年)、パナマ侵攻(八九年)はまさにメディア操作の実験場だった」と指摘する。
マスコミ各社の代表が軍のセットした会見などを取材し、内容を共有する「プール取材」と呼ばれるシステムはパナマ侵攻の際に採用され、湾岸戦争では当たり前のように取られた。
「米軍は『危険だ』などいろんな理由をつけて戦場に記者を入れず、すべて終わってから都合のいいところだけを見せた。特にパナマでは、ノリエガが悪玉であることを強調し、ノリエガの逮捕に焦点をずらし、戦場映像を撮れない無念さをマスコミに忘れさせた」
今後のイラク攻撃では、どのようなメディア操作が行われるのか。
川上教授は「フセイン政権の残虐さの証言と、大量破壊兵器を隠しているという証言は、必ず出てくる。それらは積極的に取材させるはず」とみる。
■星条旗を配って米軍歓迎を演出
放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏は、米政府の望む“シナリオ”について、「米軍を喜んで迎えるイラク国民の様子やフセインの名前がついている施設を元の名前に戻すシーンなどを映像で流してほしいはずだ」と読む。浜田氏も「湾岸戦争の時は、広告代理店の社員が、米軍を迎えるための星条旗をクウェート国民に配った」。
だが、川上教授は、こうしたメディア戦略の前提となるのが「短期決戦」であることを強調する。
「戦争が長引けば、世論の誘導は困難になる。短期決戦は至上命題。米国は残虐な爆弾を使ってでも短期で戦争を終結させるつもりだ。犠牲の大きさは後で判明するかもしれないが、戦争が終わってからでは、世論は興味を持たない。なかったも一緒だ。アフガンもそうでしたし…」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030320/mng_____tokuho__000.shtml