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■ 真壁昭夫 :エコノミスト
イラクに関する武力行使の経済的な影響は、戦闘が続く期間によって大きく変わると
思います。91年の湾岸戦争当時は、91年1月中旬に開戦した後、わずかな期間で
戦争の趨勢が決まり、連合国側の勝利・イラク軍の敗戦の図式が決定的になりました。
これによって、90年夏にイラク軍がクウェートに侵攻して以来、高騰を続けていた
オイルプライスが低下傾向になり、主要国の株式市場も活況を取り戻したと記憶して
います。今回の戦闘が、前回の湾岸戦争のような短期間の戦闘で終結すれば、世界経
済に与える影響は限定的となると考えられます。
ただ、一部専門家の間では、今回の戦闘は、前回のように短期決戦型で終わらない可
能性を指摘する向きもあります。それは、今回の目的が、フセイン政権を打倒すると
ころまで想定されているからです。そのためには、イラクの中心地であるバクダット
まで軍隊を進行させ、フセインが降伏するか、海外へ逃亡するところまで、戦闘を続
ける必要があると言うのです。しかも、その後も、軍隊をイラクに駐留させることに
なれば、その期間は、さらに長期化することも考えられます。
実際、戦闘がどのような展開になるかは、よく分かりません。しかし、戦闘が長期化
する場合には、オイルプライスが高止まりしたり、湾岸地域を航行する船舶や航空機
の保険料が高騰することが考えられます。これは、物理的に企業の経済活動を阻害す
ると同時に、危険負担に対する費用の増加で、一部企業の収益を悪化させることも想
定されます。また、戦闘の長期化によるテロ活動の活発化で、世界的に治安状況が悪
化して、家計の消費活動を妨げる可能性もあるでしょう。
前回の湾岸戦争の時には、米国を中心にして生々しい戦争の報道がなされ、人々が家
にこもって、テレビにかじりついたものです。こうした現象は、CNN効果と呼ばれ
たようです。人々が家から外に出ないと、ものを買ったりすることが少なくなり、消
費水準が落込むことも考えられます。91年当時も、こうした傾向が見られました。
戦闘が長期化するケースでは、こうした経済阻害効果は、かなり大きいと考えるべき
でしょう。
もう一つの問題は、今回と前回とは、世界の情勢がかなり異なっていることです。前
回は、イラク対世界連合軍という構図が明確でした。ところが今回は、米英対イラク
という図式になっています。それに対して、ドイツ・フランス等の諸国は、米英に対
して、明確に反対の立場を示しています。この事実は、後になって歴史的な転換点と
評価される可能性があると思います。つまり、米国が世界で唯一のスーパーパワーと
して君臨してきた、これまでの世界の権力構造が変化する兆候が現れてきたかもしれ
ません。
アフガニスタン戦争の時、ある人とディスカッションをしました。彼は、「アフガニ
スタン戦争の勝利で、パックスアメリカーナが完成した」と言っていました。つまり、
米国が中央アジアの制空権を掌握したことで、米国一国のヘゲモニー(覇権)が構築
されたという理解をしたようです。この見解に賛成ですが、しかし一方で、パックス
アメリカーナが完成したと言うことは、これから、その体制は衰退の道を辿ることに
なるのではないかと思います。
体制が崩壊していくには、たぶん、時間が掛かると思いますが、一度、伸びきった権
力は、いずれ弱っていくのが、今までの歴史が示すところです。今回のイラク問題が、
米国のヘゲモニー解体への一歩になる可能性もあると考えられます。
エコノミスト:真壁昭夫