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「おお、エイハブ」スターバックは叫んだ。「三日目の今、今からでもまだ止めて遅くはない。ごらんなさい!モービーディックはあなたを相手にしてはいません。狙っているのは、夢中で狙っているのはあなたのほうだ!」
が、その転回の際に、近づいて来る本船の真っ黒な船体が目に入り、これこそおのれを迫害する元凶、今までの小者と違う敵の大将、殿様とでも思ったものか、突如、沸きかえる白泡の噴きそそぐ中に顎をたたきつけながら、すすみよる船首へと押し寄せて行った。
「鯨が!船へ!」恐怖に震え上がって、漕手が叫ぶ。
「鯨だ!鯨だ!ヘルム上手へ!おお、大空の善なる力ある霊よ、いまこそしっかりと私を抱いて下さい!もしスターバックが死なねばならぬものなら、女が怯えて気絶するような死に方をさせないでください、ヘルム上手へと言ってるんだ」
が、飛び立った索の一巻が彼の首に巻きつき、死刑囚を縊るトルコ人の唖の警吏のように、声もなく、彼をボートからひっさらって行った。
船はサタンのようにおのれとともに天の一部なる生き物を引き連れ、これをおのれの冠とせぬうちは、地獄へと沈みゆくことを肯んじなかったのだ。
やがてすべては潰え滅び、大いなる海の柩衣は、五千年前と同じうねりをうねりつづけた。
劇は終わった。なぜそれでは、ここで誰か出る幕があるのか?
それはその男がこの難破で生き延びたからだ。