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新興感染症SARS(重症急性呼吸器症候群)と欠陥が露呈した「感染症新法」
谷田憲俊 兵庫医科大学消化器内科
はじめに
「中国広東省と香港で原因不明の熱病が流行し死者も出て現地は混乱している」というニュースが2003年2月に複数の主要医学週刊誌に掲載された(1)。当時、香港ではトリ型インフルエンザが再び発生した時期と重なり、新型インフルエンザ、あるいは「炭疽テロ」でないかと騒がれた。ほどなく、それがハノイに飛び火し、SARS(severe acute respiratory syndrome、重症急性呼吸器症候群)として、東アジアを中心に世界に流行するようになった。
世界保健機関(WHO)のまとめでは、5月10日段階で7296名の患者、うち526名死亡となっている(2)。9日付け日本は、「疑い例」46名、「臨床診断例」16名である(3)。ところが、「確定例」はないとして、「日本ではSARS発症なし」が公式発表となっている。このトリックは、日本独自の症例定義による(表1)。
表1 SARSの診断基準表現
WHO アメリカ 厚生労働省 本稿
suspected case suspected case 疑い例 疑い例
probable case probable case 可能性例 臨床診断例
− − 確定例 −
厚生労働省訳の「可能性例」は誤訳である。意味するところは、「臨床診断例」である。確定診断法が確立されていないので、除外診断による「臨床診断」が報告の基準となる。したがって、本稿では「可能性例」という言葉は使用しない。ちなみに、アメリカは「疑い例」も含めてWHOに報告している。
日本のSARSの診断基準は「臨床診断例」を「可能性例」とする曲訳はあるが、WHOと同じである(表2)(2-b)。そして、そのWHO基準に基づき、「疑い例」も「臨床診断例」も届け出る。また、「疑い例」が「臨床診断例」に進行した場合もその旨を届け出る。ただし、「疑い例」が「臨床診断例に変わった場合でも、(1)他の診断によって病状が説明できるもの、(2)標準の抗生剤治療で改善する等、3日以内に病状の改善を医師が認めたもの、は除くという。後述するように多くのSARS患者は回復する。したがって、回復したからといって、「SARSでない」とするのは不適切であり、そのような行為は情報隠しを意味する。
このような日本の情報隠蔽は、世界のSARS対策を台無しにしかねないため、「中国よりたちが悪い」とWHOから非難された(4)。頼りとすべき各報道機関も厚生労働省発表を報道するのみである。厚生労働省は対策の一環としてSARSを感染症新法に基づく「新感染症」に指定した。しかし、対策の具体化を任された都道府県は情報が隠蔽されたままに対応せざるをえない。一般人にとっても、事実を隠されたままのため、不安と怖れが先行している。今回のSARSは、歴史的に続いてきた感染症行政の問題と「感染症新法」の欠陥、さらには“大本営発表”のみを報道する日本のマスコミの体質を露呈させた。ここにSARSについてまとめ、それらの問題を明らかにしたい。なお、文献として現れているのは少なく、WHOとCDC(米国疾病予防センター)情報によるものが多い。引用の特定のない情報の詳細は、それらのホームページにあたってほしい(2,5)。