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WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(4月19日、更新第34報)
http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update34.html
未解決の疑問点:SARSの進化に関わる重大な疑問点
多くの国からSARS「可能性例」が報告され続けていることから、WHOはこの新しい疾患について何が分かっており、特に感染経路について、また何が難問として残っているのかを再検討している。
SARSを引き起こしている病原体は今や、完全に特定されている。新しいコロナウイルスであるSARSウイルスがこの病原体であり、既知のコロナウイルス科に属する、どのヒトあるいは動物ウイルスとも異なる。新型ウイルスであるために、その特性についてはほとんど知られていない。鍵となる疑問には、ウイルスの排泄が最も多い感染の段階、異なる体液中のそれぞれのウイルスの濃度などがあり、懸命に研究されている。科学者たちはまた、乾燥した表面や懸濁液中、糞便の中を含めた環境中で、ウイルスがどれだけの時間生存できるかを特定しようと研究している。
SARS「可能性例」を報告しているほとんどの国々が、わずかな輸入例を抱えているに過ぎない。これらの症例が直ちに検知され、隔離され、厳格な感染制御手法に従って管理されれば、経験上、病院スタッフや家族への感染の拡大は、まったく起こらないか、非常にわずかな二次感染にとどまる。またこれらの経験から、SARSウイルスは多くの場合、直接の密接な接触によって、呼吸器からの飛沫を介し感染を拡大していくという集団発生早期からの、多くの証拠を再確認することになった。
しかしながら、香港とカナダの集団発生から得られる情報から、SARSに関するいくつかの重要な新しい疑問が湧いて来る。香港では、大きくて突然のほとんど同時に発生した症例(321例)の集積群が、淘大花園(アモイガーデン)住宅団地の住人のあいだでみられ、環境要因からの伝播の可能性が浮かんできた。
それに加え香港保健当局からの報告によると、この集積群の患者は依然に確立された臨床像と何かしら異なっていることが示唆された。疾病は淘大花園(アモイガーデン)の居住者や、それに関連した病院スタッフの症例の方が重篤であるように思われる。淘大花園(アモイガーデン)と無関係の症例は10%が集中治療を必要としたのに比べ、淘大花園(アモイガーデン)関連症例では約20%であった。高齢者や基礎疾患を有する人たちと同様に、幾人かの若くてSARS罹患依然は健康であった人のあいだに死亡例が発生している。他の集団発生では2〜7%である下痢症状が、約66%の淘大花園(アモイガーデン)からの患者にみられた。
これらの症例が、濃縮された環境因子へ暴露したことで起こりえる、高ウイルス濃度の感染を受けたのか、ウイルスがより毒性の高い形へ突然変異したのかといった推測が成されている。コロナウイルス科のウイルスは、突然変異の頻度が高いことが知られている。
カナダにおいては、カリスマ的宗教団体の成員、彼らの治療にあたった医療従事者、近親と社交上の接触者からなる31例の「疑い例」と「可能性例」の集積に懸念が集まっていた。この種の集団発生はより大きなコミュニティーへ広がる可能性があることから、特に危惧を抱かせるものであった。この宗教団体による大きな集会が、3月28日と29日に開かれたことから、特にこの密接に結びついた宗教団体の成員の間で、さらに複数の暴露が起こったかもしれなかった。
厳しい接触者追跡調査、自宅内検疫、保健職員による細やかな経過観察が、さらに一般社会へ拡大するのを防いだと思われる。この症例集積群の発端者は、後に死亡例となったSARS症例との、院内の救急治療室での接触へ遡ることができた。この集団発生は、非常に多数の人々が暴露された可能性がある場合も、厳格な接触者追跡調査行われ、その他の厳しい公衆衛生上の措置がとられれば、感染の拡大を防止することができることを示した一例と考えられている。
トロントの同一ブロックの、247ユニットの分譲アパートひとつに集中したSARS例の4例中3例が、この発端者と結びつけられた。4番目の症例が、このSARS患者との直接的接触で結び付けられなかったことから、感染源として、建物内の環境汚染が起こった可能性が推測された。しかしながら、4例すべてが4月の早い時期に発生しており、4番目の症例は4月4日に発症している。それ以上の症例の発生なしに、潜伏期は既に過ぎた。環境から発生する感染のリスクはほとんど無いと思える。
ベトナム
ベトナム当局が最後のSARSの新規症例を報告してから一週間が経過した。この期間中に新しい死亡例の報告はなく、ハノイの状況は安定したように見える。フレンチ・ホスピタルへの感染防御対策の導入後、SARSの伝播は防止されているようである。10例の患者が現在SARSから回復中とされ、いずれも危険な状態には無い。
ベトナム政府は、SARS症例の輸入を未然に防ぐ試みとして、中国との国境を閉鎖することを考慮中である。保健省から首相へ提出された提案は、中国との1,139kmに及ぶ国境を、陸路の入国者に対して無期限に閉鎖すると言うものであった。
ベトナムのWHO当局は今週の初めに、ベトナムはSARS集団発生を国内で制御しているが、依然として中国からの疾病の大量輸入の危機に面していると述べていた。
患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに、25ヶ国から累積で3,547症例、182死亡例が報告されている。昨日に比べ、12例の新しい死亡例がすべて香港特別行政区から報告されている。
感染症情報センター(http://idsc.nih.go.jp/index-rj.html)