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『石原銀行』は中小企業救える?
石原慎太郎都知事は「生きた金を供給する」と強調する。東京都主導で来年度にも開業する「新銀行」の使命だ。金融機関による中小企業への貸し渋りが続くなか、救世主として名乗りを上げたといえる。だが、無担保で、高金利でなく、リスクも少ない融資などできるのか。町工場の集まる東京・大森の経営者に、嵐を呼ぶ「石原銀行」の是非を聞いた。 (鈴木穣)
「都市銀は中小企業なんて、はなから相手にしていない。でも都の新銀行に期待するかというと疑問です」
百五十社近い中小企業が集中する東京都大田区大森西一丁目。地区内のあちらこちらに新しいマンションが目立つ。元は町工場だった土地だ。その一角で鉄骨資材工事会社「神原製作所」を営む神原一晃社長(62)は、首をかしげる。
神原社長はある大手都銀と三十年来のつきあいがある。だが今春融資を申し込むと決算が赤字だったことで断られた。揚げ句に「お宅のことは知らない」と担当者に言われてしまう。
「うちはバブル期に社員を独立させたおかげで高い人件費を払わずに済み、不況下でも建築設計のパソコンソフトを導入し独学して図面を製作し、やっと受注も増えてきた。そういう事情を都銀は聞こうともしない」と不満を口にする。
だが新銀行に期待するかというと、素直には喜ばない。「今は土地の価値が落ち担保にできなくなった。今借りようとすると保証協会から保証をしてもらい金融機関から借りることになる。保証協会には、決算報告や役員経歴など企業の将来性を訴えて保証を得ている。問題がなくても一カ月はかかる。そこまで厳しい審査を受けて融資を得るのに、都の新銀行だからといって、気軽に融資してくれるわけがない」
■『都なら返済しなくても』
共同経営する妻(59)は、「運転資金など厳しい状態の町工場が多いなか、借りても返せない。もっと言うと都市銀と新銀行両方から融資を受けていたら、せっついてくる都市銀にまず返す。新銀行は都がやっているのだから、返さなくてもいいのではと思う人がでてくるだろう」と突き放す。
グッチやコーチなど有名ブランド店の内装を手がける「大明工芸」は高齢化の進む町工場のなか、若手従業員もいて活気があった。社員五十四人を抱える土井清社長(61)も懐疑的だ。
「企業の技術力や将来性に対し融資するというが、いったい誰がその判断をするのか。銀行が不良債権を多く抱えたのは、銀行マンに不動産のプロがいなかったからだ。しかも企業の将来性を見極められなかったから不動産を担保にしていたわけで、既存の銀行がそうなのにどうするのか。逆に安易に貸し出すと、借りた企業は収益見通しも考えず借り、返せなくなる。結局、瞬間的なカンフル剤の効果しかない」
さらに土井社長は「企業には、借りない努力が求められているのに、借りたことで倒産しかねない。将来につながるような指導とセットで融資はやるべきだ」と安易な融資を警戒する。
新銀行を迎え撃つ“ライバル”となる地元金融機関はどうか。自転車で営業回りをしていたある信用組合大森支店の営業マンは「確かに競合するが、こちらは工場の改装の様子や設備の具合など企業個々の事情を営業しながら見ている。その中で融資先を見つけるが、新銀行は二百人の陣容でどうするのか。行き当たりばったりの商品を出されて融資先が倒産させられたら迷惑だ」と話す。
地元で十八店舗を展開する共立信用組合本店の菱谷勝営業部長は「地元の町工場の九割は運転資金に困っている。融資はそちらに回るので将来性に融資することにならない。それでも信組は営業マンが個々に対応している。そういうきめ細かいことが新銀行にできるとは思えない」と脅威には感じていないようだ。
それに「既存の都の(中小企業向け)制度融資も不備があるわけではない。そちらを充実させた方が投資して銀行をつくるより有効のはず」と話す。
■物作りに意欲歓迎の企業も
期待の声もあった。従業員二人とコンピューター基盤部品を作る「三栄製作所」の轟巌社長(62)は「希望が持てる。物作りに意欲があるのに資金がない企業には朗報だ」と喜ぶ。
ただ、「うちも受注はバブル期の四割減。結局、みんな融資より仕事が欲しいと思っているんだから」と付け加えた。
前出の土井社長は最後にこう分析した。「新銀行は少なくとも貸しはがしなど都銀へのけん制球にはなる。それがドーンと上がった花火で終わるのか、実効性のある政策なのか、まだ見極めが必要ということです」
都の新銀行構想については、金融の現場や専門家からも疑問や不安の声が上がっている。まず、無担保なら当然、リスクが高くなり金利も高くなることが想定される。既に無担保融資を実行している地銀関係者によると「融資枠は五百万円で、手数料も含めれば金利は10%を超える。経営者の面接も含め審査はかなり厳しい」のが実情だ。
都市銀行出身のノンバンク関係者が打ち明ける。
「中小企業向けの無担保融資は、三井住友銀行の商品がヒットして注目が集まり、他の銀行もまねしようとしている。無担保だと金利は高くならざるを得ないが、今は銀行が貸さなければ、あとは消費者金融に頼る。その中間がない。そこにすき間があることは、誰もが気づいていたが、手を出さなかったのはリスク管理の能力がないからです」
「リスク管理には、超ハイレベルの統計学の知識が必要です。米国ではアポロ計画で軌道予測をしていた人が金融の世界に入り、その分野が発達した。過去のデータの蓄積とノウハウが必要だが、日本は勘でやっている。むしろ、消費者金融の方が個人への貸し出しについてはリスク管理のデータもノウハウも確立されている。だから銀行は消費者金融と組んで個人向けローンの商品を作っている。企業向けとなると人材は限られるだろう」
明治大学政経学部の高木勝教授は「民間の銀行が貸し渋り、貸しはがしをしている中、都の構想は机上の理論としては正しい」としながらも「実際に、将来性や発展性、技術評価を審査するには、相当優秀な人材を集めないと構想倒れに終わる」と指摘する。
「今回の構想は、銀行税訴訟などで民間金融機関に頭に来ている石原知事の気持ちから出てきている部分が大きい。彼が永久に都知事ならいいが、知事が去ったときにどうなるかという問題はある」
一方、経済評論家の三原淳雄氏は「民業がしっかりしないから官が出てくる。銀行では有能な人から先に辞めている。人材を集めるにはいい時期だ」と意義付けている。
(早川由紀美)
(メモ)東京都の「新銀行」構想
資本金2000億円で、都が半分以上を出資する初の自治体主導の銀行となる。2004年度中の営業開始を目指す。個人から広く預金を集め中小企業向けに貸し出す。高い技術力などがあれば無担保で融資する。従業員は200人程度でスタートする。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030528/mng_____tokuho__000.shtml