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ドルの崩壊が始まった  カレン・ラウリー・ミラー
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投稿者 TORA 日時 2003 年 5 月 27 日 08:50:05:

◆「強いドル」を支えてきた各国の通貨当局もいよいよ逃げ出す構え

カレン・ラウリー・ミラー(ブリュッセル)

ドルはユーロや円に対して弱いばかりではない。世界のほぼ全通貨に対し、全面安の展開だ。
 これはひょっとしたら、「強いドル」の終わりの始まりではないかと、為替トレーダーのデニス・ガートマンは先週、顧客向けのニュースレターで指摘した。
 このリポートは、アフリカの元中央銀行家の不気味な「予言」を引用している。「世界各国の準備通貨としてのドルの地位は、少しずつだが確実に(ユーロに)取って代わられようとしている」
 そして通貨危機の長い歴史に言及し、こう結論づける。「ドル危機が、すぐそこまで迫っているかもしれない」
 お堅い専門家がこういう言い方をするのは、よほどドルの先行きを悲観している証拠だ。
 第2次大戦前、各国の通貨当局は通貨の裏づけとして金を保有した。その後アメリカが超大国として台頭すると、裏づけはドルにシフトした。そのドルが、年初から対ユーロで9%下落した。市場では、ドル安はまだまだ止まらないという見方が優勢になっている。
 これは、世界の基軸通貨としてのドル支配の終焉や、アルゼンチン・ペソのような大暴落の先駆けなのか。「そうは思わない」と、ガートマンは書いている。ただし、各国の通貨当局が「極端にドル偏重」の外貨準備の保有比率を見直しはじめたのは確かだという。

◆ドル高もバブルだった

 現在のドル安は、通常の為替変動ではない。ニューエコノミー・バブルの時期、外国人投資家はアメリカの株や債券に殺到し、ドルの水準を経済のバブルと同じくらいに高くつり上げた。その反動が、遅ればせながら襲ってきたのだ。
 アメリカ経済が不況の瀬戸際に追い詰められた今、外国人投資家はより適正なドルレートを求めている。急増するアメリカの経常赤字や国外のより有利な金利も、この動きに拍車をかける。赤字のかなりの部分を穴埋めしてきた中国の銀行家さえ、1日に15億ドルもの赤字を垂れ流す浪費癖にはついていけない、と警告する。
 先週、FRB(Federal Reserve Board /Board of Governors of the Federal Reserve System:米連邦準備理事会)が初めてデフレへの警戒感をあらわにすると、投資家はこの歴史的な政策転換をさらなるドル売りの材料とみた。ドルはさらに2%下落した。ゴールドマン・サックスの為替ストラテジスト、ジム・オニールは、ドルはあと4〜5年は下がり続けるとみる。「ドル売りはまだまだ終わらない」
 大半のアナリストは、バブル崩壊後の調整は、ドル安とアメリカの輸出競争力回復、という市場原理を通じて徐々に進むとみる。
 メリルリンチの為替アナリスト、アレックス・パテリスは、ドル安が進んだ85〜87年に米経済が成長したことを指摘する。そして最後は、経済成長がドルの価値を引き上げた。「値段が妥当なら人々はドルを買う」と、パテリスは言う。「自然に任せておけば、市場が問題を解決してくれる」
 ジョン・スノー米財務長官は先週、強いドル政策を堅持すると語ったが、アメリカにはドル安を歓迎する理由がたくさんある。輸入品の価格が上がれば、アメリカ人はもっとアメリカ製品を買うようになるし、ありがたいインフレ圧力ももたらしてくれる。
 だが、穏やかな調整シナリオには障害もある。ヨーロッパや日本も景気回復のために自国通貨安を望んでいる。だが、米欧日の通貨が同時に安くなることはありえない。ドル安が進行すれば、日欧の通貨当局は為替介入でドル安を阻止しようとするかもしれない。
 先週、第1四半期の決算を発表したドイツの出版社ベルテルスマンや自動車のフォルクスワーゲンは、販売不振をドル安のせいにした。「今後数週間の動向は要注意だ」と、ロンドンのある為替取引担当者は言う。「アメリカとそれ以外の国々の利害が対立している。ドル安が続けば、保護主義や貿易摩擦に火がつくかもしれない」

◆さらに25%の下落が必要

 EU(The European Union:欧州連合)は5月7日、40億ドルの対米制裁をちらつかせて輸出優遇税制の撤廃をアメリカに迫った。対する米政府は、EUの遺伝子組み換え食品の輸入制限措置をWTO(World Trade Organization:世界貿易機関)に提訴する構えを見せた。
 ドル崩壊シナリオの信奉者も増えている。AIGトレーディング・グループのストラテジスト、バーナード・コノリーは、米経済の再生にはドルはさらに25%下落する必要があるとみる。世界中が対米輸出を頼みの綱としている現状を考えれば不可能な水準だ。とりわけユーロ諸国は、極端なドル安から域内市場を守るために手段を選ばないだろうと、コノリーは言う。「まずいことになった」
 ドルをめぐる政治的攻防が今後どうなるかは予断を許さない。だが、長期的には他のどんな通貨よりもドルが有望だという点では大方が一致する。アメリカの潜在成長率は約3%で、2%のヨーロッパや1%の日本より高い。普通ならそれだけでも基軸通貨としての地位は安泰なはずだが、世界がバブル崩壊の後遺症にあえぐなかではそうもいかない。
 ガートマンのみるところ当面は、対欧貿易は盛んなのに外貨準備にほとんどユーロをもたない国々が、静かにその不均衡を正そうとする動きが続くという。
 つまり、今あるドルを売ってユーロを買う、ということだ。ドルをもっている人、ご用心。

ニューズウィーク日本版
2003年5月21日号 P.36

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