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「日銀の金融政策は数年遅れ」高橋 洋一 氏:金融ファクシミリ新聞社 週刊RR vol.18 掲載
http://www.asyura.com/0304/hasan26/msg/141.html
投稿者 あっしら 日時 2003 年 5 月 14 日 17:30:50:


財務政策総合研究所 客員研究員
経済産業研究所 客員研究員
高橋 洋一 氏

                聞き手  編集局長 島田 一

――ABCPを買い切りオペの対象とするなど、株や国債の買い切りの増額などと併せ、多様なメニューを少しずつ実施しているが、一方でマネーサプライが鈍化していることも事実だ。

 高橋 日銀は量的緩和を進めているといって、本日(4月30日)5兆円の上乗せをしたが、当座預金残高が20数兆円規模では、メニューを増やしても、効果に限界がある。国債買い切り額という量的な数字がまず先にあるべきだ。それに、リスクのないABCPを対象としたことについて言えば、ばかげた話だと思う。淀んだ水を上澄みとヘドロに分けて、日銀が上澄みを取ったら、残りはどうなるのか?かろうじて今ABCPの流動性があるのは、上澄みとのセットだからだ。ヘドロだけのABCPが市場に増えれば、ABCP市場の流動性は落ち、かえってマイナスだ。

――当座預金残高の水準をいくら引き上げても、お金は日銀に溜まるだけでマーケットに流れない。

 高橋 当座預金残高を引き上げると同時に、国債買い切り額を増やせば効果はある。国債買い切り額を思い切り増やせば、金融機関は国債に振り向けていた預金を貸し出しの方向に持っていかざるを得ないし、通貨発行益が入るというメリットもある。理論的な観点からみると、買い切りオペを実施すれば、買い切り額とほぼ見合った額の通貨発行益が発生する。通貨発行益は、国債残高を増やさずに、減税や社会保険料の支払停止の穴埋めに回すことができる。そうすれば、間違いなく物価は上がる。数年前のGDPギャップであれば、今ぐらいの規模のオペでもけっこう効果があっただろう。しかし、後手後手になった金融政策のミスにより、GDPギャップが縮小するどころか、逆に広がっている。私から見ると、日銀の金融政策は、数年遅れているという印象だ。

――需給ギャップを埋めるために必要な買い切り額は。

 高橋 GDPギャップの計算によるが、政府は30兆円くらいとみているものの、多めに計算しても40〜50兆円程度だろう。40〜50兆円とすると、買い切り額は月額4兆円程度の計算になる。毎月4兆円規模のオペを一年も実施すれば、物価は上がってくる。効果が少なければ、延長することを考えてもいい。

――通貨発行益は、減税などで使った方がよい?

 高橋 減税などに使わなければ、国債の償却に回るだけだ。そうすると、国債市場だけが過熱することになる。公共投資に回したり、株を買うのも同じで、建設資材や株価などの特定のものの価格だけが上がることになる。それよりも、社会保険料の支払停止のように、薄く広く撒き、いろいろな物価が上がるほうが望ましい。つまり、一回個人にお金が入って、個人の判断で株なり土地なりを買うようにする。そうすれば、各企業は40兆円獲得のために営業努力をするようになって、経済活動が活発化する。

――社会保障料を一年間ゼロにするほうが、公平かつメリットが大きい…。

 高橋 そのとおり。ただし、社会保障でも、給料に応じて払う部分をゼロにすると、高額所得者の減税みたいになってしまう。それよりも、基礎年金という誰でも払う定額の部分をゼロにするほうが、資源配分的に中立で望ましい。政府の基礎年金の収入は年間で20兆円弱だから、国債の買い切りオペを40兆円とすると、2年間、社会保障料の基礎年金部分をとらない計算だ。基礎年金を取らなければ、企業のほうにも余裕資金が生じ手元流動性が高まる。つまり、個人と企業の両方にメリットがある。

――なるほど。

 高橋 また、政府や日銀は、市場や国民が自ら持っているインフレ予想率を集計し把握することも重要だ。インフレ予想率は、設備投資に重大な影響を与える。ほとんどの人が2〜3年においてデフレが続くと予想している今の状況では、実質金利がかなり高くなり、設備投資はほとんど行われない。こういった情報は日銀がきちんと把握し、公表していくべきだ。一方で、予想率に客観性を確保するために、政府機関も同じような調査をする。インフレ予想率は、日銀総裁の仕事振りを評価することにも活用できる。デフレから脱却すると言っている任期五年の日銀総裁に対して、万が一、集計された予想率が今後5年間でデフレが脱却できないという結果であれば、国民が日銀総裁を信じていないのと同じだ。

――海外ではインフレ・ターゲットは何年を目標に設定されるのか…。

 高橋 国によって違うが、ファンチャートという見通しは2、3年程度が主流だ。また、方法は、金利操作または量的にはGDPギャップの分だけ国債オペを行えばいいだけだから、非常に単純かつ簡単だ。しかし、今の日銀は、いつになったらデフレから脱却するのか、国債買い切り額を具体的にいくらにするべきかも言わない。GDPギャップは計算によって違ってくるが、近い数字であればいい。しかし、誰がみても日銀の国債買い入れ額とGDPギャップはズレている。

――日銀の金融緩和が遅れる一方、金融庁が不良債権対策で大手銀行を締め上げている。そうなると引き締め効果ばかり効いてしまう。

 高橋 もうひとつ、日銀で余計なことをしていると思うのは、金融庁の仕事をしている点だ。要するに、金融政策ではなく金融行政に踏み込んでいる。銀行の保有株買い入れがまさしくそれだ。日銀と金融庁が2人して不良債権処理を叫び銀行を締め上げ、一方で金融緩和をしない、これは最悪のパターンだ。

――検査なんて日銀がやるものじゃないと。

 高橋 日銀が考査を行って無意味とは思わない。ただ、不良債権処理が重要だとか金融庁のようなことを言っておきながら、金融緩和という本来の役割がおろそかになっている。銀行の指導は金融庁がやるべきことで、日銀が先頭に立って行う必要はない。日銀の業務の中に金融行政的な側面があるのは分かるが、どうも金融庁の仕事である不良債権処理を言い過ぎている。

――銀行に不良債権があるから、懸命に金融緩和しても市場に金が流れていかないというのが日銀の論理だ。

 高橋 せめて国債オペを今の倍、つまり一年で30兆円をネットベースでやったら、金融緩和をしていると認めるが、自分たちが十分やっていないのに不良債権の主な原因にするのはおかしい。また、国債買い切り額は現在月額1.2兆円つまり年ベースで15兆円弱となっているが、国債の償還月に日銀のバランスシート上の長期国債額は月額買入額ほどは増えない。つまり、今の数字はグロスベースのようだ。本来こうした数字はネットでなければ意味がないだろう。

――それでも日銀が動かなければ…。

 高橋 先日スティグリッツ教授も指摘していたように、政府が通貨を発行すればよい。今でも財務省は造幣局により補助貨幣を発行しているが、すこし手直しして、これを大規模にやることはやればできないこともない。例えば、国民一人当たり30万円を社会保険料の停止などで支給する。4人家族で120万円だ。こうすることでデフレは去る。今やこうした大胆な発想が必要な時期だ。 (了)

【高橋氏略歴】 昭和30年生まれ。米国プリンストン大学研究員などを経て、平成13年より現職。専門は、デリバティブズ、年金数理。主な著書に『ケース・スタディによる金融機関の債権償却』(きんざい)、『ALM』(共著、銀行研修社)、『まずデフレをとめよ』(共著、日本経済新聞社)などがある。


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