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「株価のメルトダウンを止めよ」
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/colCh.cfm?i=t_takahashi40
(日本総合研究所 調査部長 高橋 進氏)
実体経済と株価の乖離
わが国経済は足踏み状態といわれるものの、この半年あまりは意外に底堅い状況が続いてきた。これに対し株価は、昨年からの下落基調に歯止めがかかっていない。株価は実体経済に半年程度先行するといわれていることを前提にすれば、すでに景気が深刻な景気後退に陥っていても不思議ではない。しかし、企業部門は輸出に牽引されるかたちで持ち直し傾向が続いており、家計部門もマインドの緩やかな持ち直しがみられる。この結果、今年1〜3月期も大幅なマイナス成長に陥ることは回避される見込みである。
では、なぜこうした実体経済と株価の乖離が生じているのだろうか。
第1に、株式市場の需給を悪化させる制度的要因が、現下の株価水準を実体経済から想定される適正水準を大きく下回る水準に押し下げているからと考えられる。2003年度の企業業績は、増益率が鈍化するとはいえ、2年連続の増益が予想されている。そうした堅調な企業業績予想にもかかわらず株価が大幅に下落している背景として、厚生年金基金の代行返上のための保有株売却をはじめとする制度的な需給悪化の影響が無視できない。ちなみに、代行返上に伴う株式の売却圧力は4〜5兆円程度とみられる。これに持ち合い解消を進める銀行や資産圧縮を進める生保が市場の売り手となっているのに対し、買い手は自社株買いを進める企業や株式買取枠を持つ日銀だけである。一方で、潜在的な買い手である個人投資家や外国投資家は萎縮したままである。もちろん資産デフレに歯止めがかからないことが、制度的な需給悪化をもたらしている最大の要因であることは言うまでもない。
第2に、わが国の輸出構造が変化していることと株価の関係も見逃せない。従来からわが国の株価はアメリカの株価の影響を受けてきた。これは、これまで直接・間接にアメリカに多くを頼っていたわが国の輸出構造下では、アメリカの株価の下落はアメリカの景気の悪化を意味し、対米輸出減少を通じて、やがてはわが国の景気悪化につながった。
しかし、このところ中国を中心にアジア経済の「自立性」が徐々に高まるなか、わが国の貿易構造が大きく変わりつつあり、アメリカ向け輸出が悪化してもアジア向け輸出は堅調という構図が生まれている。この結果、アメリカの株価につられて国内株価が下落しても、アジア向け輸出の増勢により足許の景気は意外に底堅いという乖離状況が生まれていると考えられる。ただし、アメリカ経済が好調なら外国投資家による日本株投資の拡大が期待できるが、アジア経済がどんなに好調でも対日投資は増加しない。
実体経済が株価に鞘寄する恐れ
今後を展望すると、株価の軟調地合いは容易に解消されないとみられる。持ち合い解消や代行返上のための保有株売却圧力は、当面持続することが予想される。加えて、アメリカ景気の低空飛行が予想されるもとで、アメリカの株価の低迷は避けられず、この面から国内株価が下押しされる状況が続こう。
一方、実体経済をみると、今のところ景気が再び後退に入っていく確たるシグナルはみえない。幸いイラク戦は短期で終結し、アジア向け輸出が日本の景気を下支えすると期待できる。企業の財務体質をみても利益率が改善傾向を示している。このようにみれば、軟調な株価と意外に底堅い経済という構図が、当面持続することが予想される。
しかし、新型肺炎(SARS)が中国経済に暗雲を投げかけており、イラク戦後も世界経済の不透明感は払拭されていない。
さらに、わが国の実体経済が意外に底堅いとはいえ、現時点で景気の本格回復へのパスが見えているわけではない。設備投資に持ち直しの兆しが見えるものの、大企業製造業が中心であり、デフレ下で業績悪化が続く非製造業の投資意欲は弱い。
家計部門についても、リストラに晒される現役世代の購買意欲は萎縮したままである。また、今後1兆円を上回る社会保障関係費の追加負担が家計活動にマイナスに作用することも懸念される。
このようにみれば、現下の株価の大幅下落を放置すれば、実体経済と株価の乖離は、いずれ、実体経済が低水準の株価に引き寄せられる形で解消に向かうことが懸念される。その場合には景気悪化と資産デフレの相互作用によって、わが国経済がデフレ・スパイラルに陥る可能性も否定できない。
こうした状況を踏まえれば、まず株価のこれ以上の下落を食い止めることが先決である。制度的な売り圧力に対処するためには、代行返上条件の緩和や、会計制度改革の方向性は不変にしても、株価下落と景気悪化の悪循環を回避するように、時価会計や減損会計の適用条件を緩和することも検討すべき時期にきている。
しかし、株価が本格的な上昇基調に転じるには、経済実体の好転が不可欠である。そのためには、政府が構造改革特区を最大限活用した規制改革の断行、大幅法人減税の実施、新世代社会資本整備に限定した補正予算編成を同時に打ち出し、成長促進を最優先とするスタンスを明確化することが急務である。