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ビル・トッテン氏:No.571 一部企業のための規制緩和
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投稿者 あっしら 日時 2003 年 5 月 02 日 21:59:09:


From : ビル・トッテン
Subject : 一部企業のための規制緩和
Number : OW571
Date : 2003年4月25日

 カナダ最大の航空会社エア・カナダが日本の民事再生法にあたる債権者整理法を申請した。2001年9月11日のテロ事件以降、赤字と債務が膨らんでいた上に、今回のイラク戦争と燃料費の高騰が追い打ちをかけたという。

(ビル・トッテン)

一部企業のための規制緩和

 エア・カナダは規制緩和によって1989年に民営化された。規制緩和先進国アメリカの中で自由化の先べんをつけたのは航空業界だった。1978年に航空会社規制緩和法が施行され、80年代前半は新規参入が急増したが90年代には巨大キャリアーによる寡占が進んだ。

 民間にできるものは民間にというのが民営化推進派の信条だが、今、アメリカの航空業界をみればユナイテッド、USエア、ハワイアンといった会社が破綻し、アメリカン航空も倒産の危機に瀕している。米航空業界全体で職を失った人の数は十万人にものぼる。

 テロ事件後、約200億ドルの公的資金を注入された航空業界に米議会は再び30億ドルを超す政府支援策を補正予算案として提出した。民間企業である巨額の報酬を得る経営者が率いる営利企業を、納税者が支援するのである。

 自由化された航空業界の、25年間の遺産は何だろう。業界全体で巨額の赤字を累積し、従業員は不安と混乱の中、料金の安くなった路線はあるがサービスや安全性は信頼に足るものなのか。航空業界の規制緩和で利益を得たのは、銀行と債権者のほかに誰がいるというのだろう。

 航空業界の現状は電力業界とも似ている。自由化が進むと公共や公益といった意識よりも効率化や利益が優先され、結局、市場システムはうまく機能しなくなる。言い換えると、民間企業が自分の利益と公益の両方に応えることは絶対にあり得ない。

 事実、企業が公益を優先して社員教育や公害対策に多くの予算を割いていれば起こり得なかった事件をいくつも挙げることができる。厳しい競争にさらされている企業は、経費が節約できるのであれば、ほとんどの企業経営者は社員教育や公害対策よりも節約のほうを選択するからである。

規制緩和要求の狙い

 規制緩和推進派はアダム・スミスが『諸国民の富』で述べた“自由な競争は創意工夫を促し、結果として社会全体の利益を増進させる”という言葉を引用する。しかし道徳哲学の学者であったアダム・スミスは『道徳感情の理論』で、“政府を支配する特定グループはその利益のために国家の公平な法律をゆがめるときがある”と述べている。

 民間企業の道徳に基づく運営管理を期待できないのであれば、規制をもとに戻すしかない。規制は社会主義などではなく規則の集まりにすぎない。倫理観のない経営者が目先の利益のために安全を無視したり、汚染物質を水や空気に排出したり、または株価を操作して自分のストックオプションの取り分を増やすといったことを「合法だからやってもいい」と言わせないようにするために必要なのが規制なのである。

 競争原理の導入という名のもとで、日本でも国営事業の民営化がすすんでいる。その際になされる、民間企業ならもっと効率的にできる、うまくいかないのは規制が残っているからだという主張はまやかしだ。アメリカが日本に規制緩和を迫るのは市場を開放させて「利益をとる」ことが目標だし、日本企業が規制緩和を迫るのも自社の利益を上げることが目的だ。

 昭和の時代、日本政府は規制によって特定産業を保護してきたがこれは国内産業を発展させて外貨を節約し、日本にない資源や高い技術の獲得に資金を使う、そのために国内産業を保護・育成するという国益にかなった政策だった。もはやこれは当てはまらない。だから規制をなくせという企業の多くは多国籍企業として世界を市場としており、日本をアメリカはじめ世界に開放して、海外からの批判をかわすことが自分たちの利益となるからだ。

 小泉首相が推進する郵政民営化だが、完全民営化はひとまず棚上げされて日本郵政公社が発足した。郵政に限らず政府は国民にさまざまなサービスを提供している。それは国民がその支払い能力に対して受けられるのではなく、国民としてサービスを受ける権利があるということを前提としている。

国民の犠牲から利益

 利益を出せる事業もあれば、提供することによって損失が出るものもある。しかしたとえ損失がでる事業でも、政府が利益をだせる事業の利益を充てることで国民の負担を増やさないようにできるだろう。しかし民間企業が参入を狙うのは、利益が見込める事業だけなのである。となれば、利益がでない事業は政府に残り、継続するなら国民はさらに税金を払うことになるか、いずれ打ち切られることになるだろう。

 事業を引き継いだ民間企業は、こうして一般国民を犠牲にして利益を手にする。全国に郵便を配信できる「一般信書便」事業への申請がなかったのは、それが大きな利益を上げられる事業ではないからだ。郵便事業が完全に民営化されれば、もうからない地域の郵便局は統合か廃止され、現在ある災害時の無料小包サービスや全国均一料金制、ポスト投かん制もなくなるだろう。

 そして国民が得られる権利は、国民の支払い能力に比例するようになっていくだろう。何もかもが金次第になるのである。一般国民に不利益となり、一部の民間企業の利益追求のみを可能にする規制緩和は、今すぐやめるべきである。

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著作:株式会社 アシスト  代表取締役 ビル・トッテン
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