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新型肺炎SARSの世界経済への影響が懸念されている。
WHO(世界保健機構)は新たに北京およびトロントへの渡航延期勧告を出したと伝
えられている。時代の変わり目には象徴的な出来事が起こりがちではあるが、イラ
ク戦争に前後して注目度が上がっていたこの問題は、世界の金融経済を見る上で
も、いよいよ無視できないものになってきた。震源地が中国であり今後の成長が期
待されているアジア圏経済への影響、とりわけ“需要の受け皿”として重要度が増
している中国本体への影響が懸念されている。もちろん一方で中国は“世界の工
場”と呼ばれるほどの生産センターでもある。そしてこれらは、過去10年ほどの間
に先進各国の投資によりもたらされたものでもある。生産設備の全てを中国に移転
した企業も少なくない。当然ビジネス上の交流は増えているが、今回発生している
問題は「伝染性の疾患」という人の移動そのものに制限を加えるものであり、企業
活動そのものに影響を与える。そしておそらく人の移動以外にも該当地域を中心と
する農作物やその他食品などの輸出入に関連する制限や輸入国側消費者の警戒が高
まったりと、世界貿易そのものにも影響を与えることすら想定できる。
この問題は金市場にとっても、もちろん他人事ではない。
広くアジア地域は金需要の上でも重要地域である。香港、シンガポールなど金輸入
および中継基地として従来から活発に金関連ビジネスが行われてきた。そこでの経
済活動の落ち込みや停滞は、金需要とりわけ宝飾需要の低迷につながる可能性があ
るわけだ。欧米市場でも、SARSの広がりの中で、さすがにここにきてこの問題
を材料視する向きが増えている。
とりわけ中国は、昨年10月から上海に金の取引所が設けられるなど、本格的自由
化に向け動き出したところでもある。これまで中央銀行にあたる中国人民銀行が、
独占的に取り扱ってきた売買や輸出入を段階的に自由化している最中でもある。現
状の中国の年間金需要は、およそ200トンほどである。ただしこの数字は、もっ
ぱら宝飾品を中心としたもので解禁されていない投資需要は含まれていない。もっ
とも、「もっぱら宝飾品」としたのは、金塊様のものに干支の刻印を押し“装飾
品”として扱われている製品があり、実質的には投資用と見られるためだ。先進国
でみられる、いわゆる地金や地金型金貨の販売は今でも禁止されている。取引所が
できたことで、こうした投資用の販売解禁も近いとされてきた。
すでに今年に入り、これまで中国人民銀行が独占的に行ってきた輸出入につき、4
大銀行である中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行に対し輸出入
が解禁されている。また今月に入ってもこれまで事前の認可が必要とされた民間企
業の金購入、加工、卸、小売などの事業についても自由化が決まっている。また今
週に入り、上海発で伝えられるところによると「人民銀行は上記の4銀行の体制が
整い次第、今年の6月末までには個人投資家を対象とした投資用金の売買を自由化
する」方針を固めたとされている(上海デイリー紙4月24日)。もちろん体制が
整えばという条件付であるので遅れることもあろうが、ポイントは自由化への流れ
が着実に、しかもそのテンポも速まる気配があることだ。
そうしたところに新型肺炎SARSの問題が起きているわけだが、仮に経済活動の
停滞による金需要の落ち込みが見られたとしても、既に中華圏の金需要シーズンで
ある旧正月を超えていること、またさらなる自由化の進展が相殺要因と考えられる
ため大きな需給の変動は無いものと思われる。
ところで、前回4月14日配信号でNY株式について取り上げたが、今週目立った
動きがあった。すでに伝えられているように、ブッシュ大統領が来年6月に任期満
了となるグリーンスパンFRB議長の再任の意向を示したことから、それを好感し
た株式市場ではダウ30種平均はこの日150ドル以上の大幅高となっている(4
月22日)。1987年に就任以来その手腕を高く買われ、市場の信頼が厚い同議
長の続騰を早々と打ち出すことで、金融市場の、また消費者心理の安定化を狙った
ものであるのは想像に難くない。もちろん来年の大統領選挙を睨んでのものでもあ
る。
さらに注目されたのは、その後(ブッシュ発言)を受けてグリーンスパン議長自身
が続投宣言をしたことだった。「異例のこと」と各紙は伝える。逆にとらえると、
それだけ市場には不安定要因が多いということになる。すでに77歳と高齢の同議
長の続投が市場の安定要因とされること自体に危うさもあるのだが、同議長の意思
表明にもかかわらずこの日のダウ30種平均が、前回指摘した“戻りの節目”3月
21日の8521ドルを超えられず、逆に100ドル近く安く終わったことが、こ
の後の株価の展開に不安を抱かせるとするのは考えすぎであろうか。
ドル建て金価格は、この間下値の目処(めど)として注目される200日移動平均
線を上回り335ドル近辺の取引となっている。米朝間で物別れとなったと見られ
る北朝鮮問題は、つぎの段階として米政権内の国務省と国防総省の意見調整がどう
なるのか注目となった。金市場の材料として急浮上しそうだ。(4月25日)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎
※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、実際の投資にあたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。
http://www.sumitomo-gold.com/market/index.html