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ＵＢＳウォーバーグ証券会社・経済調査部チーフエコノミストの白川浩道さん（Hiromichi Shirakawa/ Chief Economist, UBS Warburg (Japan) Ltd.）は今日のポイントとして、「日銀政策変更は何を意味するか？」を挙げる。日銀は当座預金ターゲットを増額した。「意外である」と語る。インプリケーションは２つ。１つは、これによって、早期の補正予算組成が遠のくリスクが高まった。２つめは、日銀の銀行部門健全化に対する執念が確認された。「予防的公的資金注入に対する日銀の関与に注目したい」と言う。
【１】 日銀による当座預金ターゲット増額（22-27兆円へ）は現状（既に当座預金残高は25-26兆円規模）を追認したものであり、追加的な量的緩和拡大を意味しない。
＜為替面では、円高圧力を抑制する効果を持つ＞
【２】 しかし、日銀が高水準の当座預金残高を維持することにコミットしたことは 、市場の期待形成に対する影響を通じ、為替円高圧力を抑制する効果を持つ。市場では、「日銀による当座預金ターゲットの拡大＝日銀は銀行システムの健全性を懸念」といった連想が働く可能性が高く、これがドル売り・円買い圧力を緩和する。
【３】 財政政策の更なる転換（真水で５兆円に迫る補正予算の早期導入）をもたらす条件は、政治面では小泉首相の支持率低下である。だが、金融経済面では、米国経済の先行き懸念やFEDの追加緩和期待を背景にした「ドル安・円高」である。逆に言えば、円相場が120円近傍で安定する、あるいは125円程度まで軟化することになれば、財政政策の更なる転換に対するモメンタムは失われる。今回の日銀の追加緩和決定によって、早期の補正予算組成に黄色信号が灯った。
＜国債増発阻止で、財務省・日銀が「２人３脚」？＞
【４】 福井日銀が早期の財政出動の議論を封じ込めてしまった背景は何か。１つは財務省との取引である。財務省はインフレ・ターゲット導入に反対し、日銀は安易な財政出動に反対する、という２人３脚である。もう１つは、輪番オペ増額要請に対する牽制である。福井総裁の国債嫌いは半端ではない。財政政策の更なる転換となれば、その規模が５兆円に止まったにせよ、輪番オペの4,000－5,000億円の増額を迫られる可能性がある。そうした流れを避けるために、高水準の当座預金残高維持にコミットしたものと解釈される。
＜日銀は、銀行部門の早期健全化達成を重要視＞
【５】 福井日銀には、（武藤副総裁の存在もあるが）安易な需要刺激策よりも、淡々とした構造改革を好む姿勢が底流として存在する。福井日銀は、財政出動よりも、銀行健全化策の方を明らかに重視している。日銀は、なんとしても銀行部門の早期健全化を達成したいようである。しかし、昨年末にかけて犯した失敗は繰り返さないであろう。福井総裁の路線は、銀行国有化を目指すのではなく、早期健全化の名の下に、予防的な公的資金注入のフレームワーク作りに積極的に関与することである。今後の注目点は、５月末を目処に方向性が打ち出される予定の 「新たな公的資金注入の枠組み」に関して、日銀が、公の場で、どの程度前向きな姿勢を示すかである。その姿勢によって、日銀と金融庁の関わり合いの深さや 、日銀の銀行健全化支援措置（後述）に対する踏み込み度合いなどを読むことが できるからである。
【６】 日銀が、銀行部門の健全化支援の面で打てる手段には何が残っているか。理論的には、①ＥＴＦ購入、②銀行の優先株購入（普通株への転換は行わないことが条件）、③産業再生機構への直接出資、を挙げることができる。これらの措置は、基本的に、政府による金融システム危機宣言を必要とするため、現状では実現性は高くない。だが、予防的な資金注入の枠組みができれば、発動の余地が増すものとみられる。なお、現在行っている株式買取りの対象に銀行株（普通株）を追加する案が出されているが、この実現性は極めて低い。日銀は、銀行考査を通じて、個別銀行の経営状態を独自に知り得る立場にあるからである。
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