現在地 HOME > 掲示板 > 国家破産25 > 469.html ★阿修羅♪ |
|
「老いる」米投資マネー――日経金融新聞 スクランブル
米国ダウ工業株30種平均は、バグダッド陥落を見て100ドル下落した。イラク戦争の早期解決が見えれば株価は上昇へ向かうとの市場の大方の「見込み」は見事に裏切られた。いや、初めから市場の楽観論自体が空虚なものだったかもしれない。
「戦争が始まれば株価は反発に向かう。ただし上昇は短期に終わる」。地政学的リスクを理由に急落していた3月初め、実はこうした読み筋が一部の機関投資家に広がっていた。彼らが根拠にしたのがヘッジファンドの需給動向だ。
20年以上にわたり全米一のエコノミストと機関投資家に支持されたエドワード・ハイマン氏が、ヘッジファンドの持ち高状況を分析している。それによると、年初来安値を付ける直前の3月第1週、買い持ちから売り持ちを差し引いた「純持ち高」比率は過去最低の36ポイントまで低下。つまり売り越しの過熱を示していた。
「戦争」を理由に先に売ったのだから、実際に事が起きれば反対売買に動くのがサヤ取りの常だ。開戦(3月19日)前後でダウ平均が1000ドル上げた間に、純持ち高は平常化し45ポイント前後まで戻っている。
この間、実需筋はどう動いたか。調査会社トリム・タブスが投資信託の資金流出入を調べている。結果は3月第3週にわずかに買い越しただけ。あとは資金流出だ。「機関投資家は戦況をじっと見ていただけ」(ゴールドマン・サックス)というより、じわじわ逃げていたと見た方がいい。
米国は売買高の4割がプログラム売買とされ、ヘッジファンドの動きが株価を支配する。弱気筋の買い戻しを、あたかも戦争解決の楽観ムードと決め込んで解釈しただけかもしれないわけだ。
4月2日、ホワイトハウスのウェスト・ウイング。ブッシュ大統領は自らの執務室に著名エコノミストや証券ストラテジストら計13人を呼び寄せた。戦況は米英軍がバグダッド南端に迫り、緊迫度が増す真っただ中。その一方で、大型減税を軸にした景気刺激策の効果をどう引き出すか、懸命に専門家の意見の聞き取りに動いていた。
プルデンシャル証券の著名ストラテジスト、エドワード・ヤルデニ氏も出席した1人。同氏は配当の二重課税廃止を昨年夏から提唱していた。「税引き後の投資収益の増加が株高につながって景気を刺激し、減税分を埋める税収増加をもたらす」と改めて主張した。
足元は戦争の重しが企業の設備投資意欲をそぎ、肝心の個人消費も息切れが目立ってきた。実体経済を刺激し、投資マネーを呼び込むことが下期の景気回復シナリオに欠かせない。ただブッシュ大統領の狙い通りに展開するかどうかは疑問符が付く。
多くの市場関係者は、イラク後の株高シナリオを1991年の湾岸戦争時から類推した。これに対し、民間調査会社リッパーの松尾健治アナリストは、12年間で起きた投資マネーの質的変化の視点が抜け落ちていると指摘する。人口動態から考えれば「米国はずっと保守的になった」。
90年代の好景気を引っ張った米ベビーブーマー。8000万人近くに達する一大層が91年当時は26―44歳と若かった。それが今は38―56歳。かつては労働者の中心層だが、今はあと少しで一線を退く時期。積極的な投資意欲が後退する年齢にさしかかっているという。株安を3年間経験し、さらに戦争の重しでリスク回避に動くのは必至という。
実際、個人マネーを資本市場に橋渡ししてきた投資信託の資金の流れがここにきて急変している。メリルリンチによると、過去12カ月分を積み上げた投信への新規資金の流入額が今年2月、1990年以降初めてマイナス(流出)に転じた。2001年末には一時5000億ドルまで流入額が拡大したが、その後の落ち込みは鮮明だ。
この12年間で米国の投資マネーは老い、急速にリスクを敬遠しつつある。戦争の影に隠れていた「構造問題」を目の前にすれば、安易な楽観シナリオはやはり描きにくい。
(ニューヨーク=藤田和明)