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[QUICK] エコノミスト「幻想のデフレとの共存」BNPパリバ証券会社 経済調部長 河野龍太郎氏
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投稿者 Ddog 日時 2003 年 4 月 03 日 00:04:11:gb2b4T9TetGkU


[QUICK] エコノミスト「幻想のデフレとの共存」BNPパリバ証券会社 経済調部長 河野龍太郎氏

QUICKエコノミスト情報VOL.95 BNPパリバ証券会社 経済調査部長 河野龍太郎氏
03/04/02

【景況判断】現状(3ヵ月前比):横這い 先行き(3ヵ月後):横這い
GDP予測:02年度1.6%(1.3%) 03年度0.3%(0.1%)
【金 利】短期:横這いTIBOR3ヵ月 0.10%
長期:横這い10年物新発国債0.90%
【円 相 場】横ばい120円/1ドル
【株 価】横ばい 日経平均8,500円

GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%。カッコ内は直近10回分の平均値
長短金利、円相場、株価は3ヵ月後(03年7月末)の予測値

1. 景気見通し:「デフレとの共存は不可能」

最近、「デフレ退治」は不可能であるから、デフレと共存可能な社会制度を構築すべきだという意見がよく聞かれる。もちろん、デフレが続く限り、民間の経済主体はそれに対応していかなければならない。対応できなければ、淘汰されるだけである。しかし、個々の経済主体がいかに努力しても、経済全体がデフレと共存していくということはあり得ない。

まず、デフレや資産デフレが続いたままでは名目金利がマイナスとならないため、金融仲介を行うあらゆる金融業は存続できなくなる。これは不良債権の新規発生を見れば明らかである。理論上は、債務契約を名目ではなく、実質額で行うデフレインデクゼーションを導入するという方法もあるが、現実の世界にそれを導入するのは不可能である。債務者である企業は喜んで応じるだろうが、融資の原資を提供する預金者が元本の減少する預金契約を受け入れはしないだろう。2003年度に政府は物価連動債の発行を計画しているが、現在考えられているスキームでは、物価が下落すると物価連動債の名目価格に元本割れが生じる。実質価値が維持されるとはいっても、名目ベースで元本割れが生じる債券に対してどの程度ニーズが高まるのか疑問である。そのような債券を購入することは現実的には難しい。

同様に、3%のインフレの下での1%の名目賃金の上昇(=2%の実質賃金の引き下げ)を受け入れることができても、マイナス1%の物価下落の下で3%の名目賃金引き下げ(=2%の実質賃金の引き下げ)を同じものとして簡単には受け入れることはできないだろう。

このように、人々が貨幣錯覚(マネー・イリュージョン)を持つからこそ、マイルドなインフレの下では、人々が実質賃金や実質金利の引き下げを比較的簡単に受け入れることができ、調整がスムーズに進む。反対に、デフレ下では実質賃金や実質金利の引き下げが困難になるのである。

そして、実質賃金や実質金利の引き下げが実現できなければ、 企業収益は低迷し、企業は支出や採用を抑制する。この結果、マクロ経済全体では数量調整が生じ、停滞が長引くのである。貨幣錯覚が全く意味をもたなくなるのは完全雇用の状況においてのみである。錯覚という言葉がネガティブな響きを持つせいか、貨幣錯覚を利用するのはよくないという意見が聞かれるが、そうした論者は自分がマクロ安定化政策を全面的に否定していることを理解しているのだろうか。マクロ安定化政策が不要となるのは、経済が完全雇用となった時であるが、現在の日本経済が完全雇用状況にないのは明らかである。したがって、我々は「貨幣錯覚」を必要としているのである。

デフレ共存論者は、19世紀にもデフレ時代が存在したが、必ずしも経済は長期停滞に陥らなかったと主張する。しかし、当時も比較的簡単に不況に陥りやすかったのは事実である。また、現代社会は19世紀と全く比較にならないほどの高度な信用経済となっているため、現代のほうがデフレの害悪は遥かに大きい。言うまでもなく、19世紀は自己資本中心の資本調達構造であったため、デフレが負債デフレを深刻化させる度合はそれほど大きくなかったのである。過去のどの時代にも、現在のような10年、20年、30年にもわたる長期の債務契約は存在していなかった。こうした長期の債務契約が存在する中で、デフレがわずか1〜2%程度でも発生して実質金利の引き下げが困難になると、債務者である企業から預金者である家計に大幅な所得移転が生じ、企業は経営難に陥り、経済成長が阻害される。

2. 金融環境:「福井新体制での金融政策」

日本銀行は3月25日に、@臨時の金融政策決定会合で金融政策の据え置きを決定し、A その直後に開催された通常会合で金融機関保有株式の買い入れ上限を2兆円から3兆円に引き上げた。銀行保有株の買い取りについては、日本銀行は、狭義の金融政策ではなく、プルーデンスポリシーと位置付けている。株価押し上げを狙ったものではなく、株価変動がもたらす金融機関経営への影響、ひいては金融システムへの悪影響を遮断するための政策である。日銀外部の者にとっては、株価押し上げを狙う非正統的な金融政策としての株式の購入とプルーデンスポリシーとしての銀行保有株買い取りの違いはわかりづらいが、日本銀行は銀行保有株の買い取りを非正統的な金融政策とは位置付けていない。だからこそ、わざわざ開いた臨時の金融政策決定会合で金融政策の据え置きを決定し、その後開催した通常会合で金融機関の保有株式の買い入れ上限の引き上げを決定したのである。

福井新総裁のこれまでの発言を分析すると、速水前総裁路線をオブラートに包んだだけで、ほとんど路線に変更はない。インフレターゲット導入やETF、REIT購入を日銀に期待する向きは多いが、それは期待外れに終わる可能性が高い。福井新総裁も速水前総裁同様に、金融政策としてできることはほとんどなく、残るはプルーデンスポリシーだけだと考えている。

確かに伝統的な金融政策は限界に達している。今回の決定会合で、「幅広い観点から金融政策の透明性向上と金融緩和の波及メカニズム強化に関する論点を、これまでの量的緩和政策の評価も踏まえつつ、次回の定例金融政策決定会合において報告するよう執行部に指示した」。場合によっては、福井新総裁は、当座預金残高をいくら増加しても、伝統的な金融政策の下では、短期金利がゼロになった段階で効果がなくなることを説明す る可能性がある。日銀内でも不良債権が存在するから金融政策の波及メカニズムが遮断されているというよりも、ゼロ金利やデフレになっているから、伝統的な金融政策が機能しない、とする意見が増えている。

ゼロ金利やデフレになると伝統的な金融政策が機能しなくなることは、理論的には広く知られていた。だから多くの経済学者はインフレ予想に直接働きかける政策として、資産市場に介入する非正統的な金融政策の有効性を説くのであるが、福井新総裁は20日の就任後初の記者会見で次のように述べている。「個々のリスク資産の価格に直接介入して、価格をつり上げるということを意図して政策手段を広げるということは考えられない」。福井新総裁は速水前総裁同様に非正統的な金融政策に否定的である。非正統的な金融政策を要請する政治圧力が今後高まると予想されるが、伝統的なセントラルバンカー である福井氏を日銀総裁に選んだ段階で、そのような期待を持つことが的外れであることが理解されてくるだろう。

3. 注目点:「イラク攻撃の景気への影響」

今回の戦争が日本経済に及ぼす影響について計量モデルを使ってシミュレーションを行った。

@短期終結 生起確率70%、米国03年GDP成長率+2.4%、日本03年度GDP成長率+
0.3%戦争が1ヵ月程度の早期に終結すれば経済に与える影響は軽微に止まる。戦争終結は、01年9月11日から始まった米国の戦時モード終焉を意味する。さらなるテロとの戦いを指摘する向きもあるが、ホワイトハウスは04年の大統領選挙に向け、政策のプライオリティ を経済政策に移すため、戦時ムード終焉を演出するはずである。先行きの不確実性の高まりが、企業の設備投資を抑制する最大の要因となっているため、これが除去されれば03年第3Qから米景気は回復が始まる。同様に、先行きの不確実性が和らぎ、リスク資産に対する回避傾向が修正される形で、実体経済よりも一足先に、米株価が上昇に転じる可能性がある。日本経済は、現在横這いを続けているが、外需主導で03年7−9月から緩やかな回復が始まる見通し。もっとも、デフレが続く限り国内需要の本格回復は期待できない。
A2〜3ヵ月で終結 生起確率20%、米国03年GDP成長率+1.4%成長、日本03年度GDP成長率▲0.2%戦争長期化による原油価格の上昇を背景に米国の消費が抑制され、メインシナリオで想定される米経済の03年後半の回復がほとんど生じない。この場合、03年度の日本のGDP成長率は0.5%ポイント押し下げられ▲0.2%とマイナス成長となる。米国向けを中心とした輸出減少が、日本の成長率に最も大きく影響する。
A.米国成長率の1%ポイントの低下がもたらす世界経済の減速の影響で、03年度の輸出は3.5%ポイント減少し輸出の伸びはほぼゼロになる。これだけでGDP成長率は0.4%ポイント押し下げられる。B.さらに、輸出減少が、企業業績を悪化させ、それが設備投資をさらに抑制するため、国内需要は0.2%ポイント成長率を減少させる。C.一方、総需要の減少で、輸入は1.6%ポイント減少し、これはGDP成長率の0.1%ポイントに相当する。最終的にGDP成長率は0.5%ポイント押し下げられる(A▲0.4%、B▲0.2%、C+0.1%)。

B長期化3ヵ月以上 生起確率10%、米経済の成長率+0.0%、日本の03年度GDP成長率▲1.2%戦争長期化で、03年の米経済がゼロ成長まで陥る。潜在成長率を大幅に下回れば、需給ギャップの拡大から米国でデフレリスクが高まる。FRBはゼロインフレやデフレの害悪を強く認識しており、躊躇なく非正統的な金融政策に踏み切る。この場合、FRBの非正統的な金融政策によって、米国経済は最終的にデフレを回避できるが、非正統的な金融政策は大幅な円高ドル安をもたらす。この結果、日本の輸出頼みの製造業の企業業績は、メインシナリオの+6.0%の増益から▲25%程度の減益になる見通し。同部門の業績の大幅な悪化は、設備投資の大幅な減少をもたらすため、日本の成長率は▲1.2%と大きく落込む。

<河野龍太郎氏略歴>
1964年生。87年横浜国立大学経済学部卒、住友銀行入行。89年大和投資顧問入社、エコノミスト、94年同社米国駐在エコノミスト、97年第一生命経済研究所入社、マクロ経済・金融分析を担当、2000年11月より現職。訳書に「金融政策の理論と実践」(アラン・ブラインダー著)、「通貨政策の経済学」ポール・クルーグマン著)等。金融学会会員、ファイナンス研究会会員、日本証券アナリスト協会試験委員。日経公社債情報・エコノミスト人気調査第4位2003年)、日経金融新聞・エコノミスト人気調査第8位(2003年)、週刊エコノミスト・エコノミストランキング第6位(2002年)にランキング。

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