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リチャード・ニクソンとジョージ・ブッシュとは、共和党大統領として選ばれたという以外、共通点を見出し難い。だが、両者は主要な点で、窮地に立っているという意味で、共通の立場にいる。
ニクソン氏は前例のない世界経済の激動期に遭遇し、ブッシュ氏もまた、そうなりつつある。歴史の単純な比較は魅力的であるが危険でもある。現在のイラク戦争の引き合いに出されるのは、91年の湾岸戦争だが、歴史を溯ると、ベトナム時代と今日におけるアメリカの経済政策との間にはいくつか顕著な類似性が見られる。
ブッシュ氏も歴代大統領と同様、戦費を増税で賄うことに消極的で、実際、今後数年間にわたる財政赤字が予測されるなかで、大統領は10年間1兆ドル以上の減税を議会に要請している。巨額の財政赤字のファイナンスは、長期金利の上昇、民間資金のクラウド・アウト、低成長につながりかねない。
財政赤字のファイナンスのためには海外からの資金流入が必要不可欠となる。現に80年代の巨額の財政赤字は海外資金の流入で賄われた。米国経済のブームを背景に資金流入は90年代も続いた。
資金流入はもう1つの巨額の赤字である、経常収支赤字―現在すでにGDP比5%―をファイナンスする助けにもなってきた。資金流入が細っただけでも、ドルは急落しかねない。現にドルは貿易加重平均ベースで過去1年に10%以上下落している。ドル安はアメリカの輸出業者には不満のタネではない。だが、70年代初めの経験が参考になるのなら、ドル暴落は世界経済の追加的重しとなりかねないし、アメリカ経済の成長促進にも役立ちそうにない。
ベトナム時代のほとんどはブレトンウッズ体制下の固定相場制だったが、ベトナム戦争とジョンソン民主党大統領の「偉大な社会」計画の負担に直面し、アメリカ経済は国内では財政赤字圧力、海外では競争力低下というプレッシャーにさらされていた。71年には1893年以来初めての貿易赤字に転落した。同年ニクソン氏は新経済政策を打ち出した。ドルは一方的に切り下げられ、減税が断行され、一時的に輸入課徴金が課された。これはアメリカの同盟国の不評を買い、73年までにブレトンウッズ体制は崩壊し、変動相場制が先進国の標準となった。ドル安はアメリカの貿易収支を黒字化させることはできなかったが、一方で73〜74年の石油危機以前にすでにインフレを加速させた。70年代の財政赤字は、60年代を大きく上回り、米国経済も世界経済の混乱に巻き込まれるなか、ニクソン再選のための金融政策の緩和も事態を悪化させたに過ぎなかった。アメリカ経済は74年、75年と大きく落ち込んだ。
ベトナム戦争は当初予想したよりも、はるかに高くついた。イラク戦争の戦費も同様に不確実である。91年当時と違って、アメリカの同盟国からの戦費の分担拠出は期待できない。戦費の予測も500億ドルから数千億ドルまで様々であるが、いずれにせよ、巨額の追加拠出は政府借り入れに頼るほかない。しかも、世界経済のリスクがかつてなく高まっている時点での巨額の戦費調達である。
アメリカは世界第一位の経済大国であり、また、経済のパフォーマンスは他のどの先進国よりも良好であるが、景気回復の足取りはもたついている。同時にイラク戦争に伴う政治的な先行き不透明感が払拭されても、設備投資が回復しなければ、他に回復をリードする材料は見当たらない。加えて、ドルのさらなる下落はインフレ圧力を高め、Fedに金利引上げを迫ることになるかもしれない。いつ、低インフレと持続する成長の好循環が、高インフレと成長率の低下という悪循環に変わってもおかしくない。
こうした状況は、アメリカの貿易相手国にとって喜ばしいことではない。彼らはアメリカのインフレ上昇が伝播的にもたらす影響を懸念している。同時にドル暴落の裏側にある円高あるいはユーロ高は、日本とドイツにとって悲惨な事態になりかねない。
これは悲観的過ぎる見通しかもしれない。だが、現在の政治的不確実性、そして、イラク戦争が迅速かつ成功裏に終わった場合の不透明感の払拭が持つインパクトは、容易に判断し難い。ベトナム戦争は予想以上に長期化し、かつ経済コストも大きかった。そして、これが世界経済の混乱と同時に起きたことは事態をさらに悪化させただけであった。
(英エコノミスト3月14日)
http://www.nier.co.jp/kijikanri/choryu/choryu-00498.shtml