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リスク戦略の発想法 第41回
「金融庁はこの貸し剥がしの実情にどう応える?」木村 剛氏 [Nikkei BizPlus]
(KFi〔KPMGフィナンシャル〕代表 木村 剛氏)
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/colCh.cfm?i=t_kimura41
最終更新日時: 2003/04/01
今も私の元には、貸し渋りや貸し剥がしに関するEメールが舞い込んでくる。今回は、その中から、半世紀以上の歴史があるエアコン部品の中堅メーカーの経営者からの報告をご紹介したい。その方によれば、同じ内容の文面を金融庁の「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」にファックスしたとある。まずは、その内容をみてみよう。
「金融庁からの指導をかさに高圧的な態度」
「私どもは、昭和26年に創業されたエアコン部品の中堅メーカーです。売上高は、残念ながら、平成4年の72億円をピークに毎年減少の一途にあります。特にここ2―3年は中国の影響が強く減少幅も大きいため、前期(平成14年9月期)においては、29億円(前期比10億円減)と大幅な落ち込みとなりました。収益面をみますと、平成3年の経常利益3億3000万円をピークに、ここ数年、売上高が減少する中で、取引先からのコストダウン要請が強いため、人員リストラを進めてはおりますが、前期(平成14年9月期)は、1億5000万円の経常赤字(もっとも、この内訳には減価償却2億円が含まれます)と大幅なマイナスとなりました」
グローバリゼーションが進展する中での経営環境は厳しい。この中堅メーカーも例外ではなかったようだ。そういう状況になればこそ、パートナーである銀行との付き合いが重要になってくる。
「銀行取引につきましては、従来地元のA地銀をメインに、メガバンクB、政府系金融機関Cに加え、第二地銀のDと取引を行っておりましたが、こうした状況のなかで、平成13年9月期に、経常損益で1400万円、当期損益で9300万円(平成12年9月期は経常利益は1000万円の黒字)の赤字に転落してからは、銀行の対応が厳しくなり、特にメガバンクBからは、金融庁からの指導をかさに高圧的な態度が見られました。具体的には、平成14年1月以降約9カ月間の間に、金利引上げ、定期預金の担保追加1億円、担保(工場財団)の評価見直し(「評価が古く担保にならない」と言われたので、260万円の費用をかけて見直しました)、中長期改善計画の提出等を求められたところです」
ここの「金融庁からの指導をかさに高圧的な態度が見られました」という下りは気にかかる。金融検査マニュアルには、「審査管理部門等が、営業推進部門に対して、当局が定める金融検査マニュアルを理由に、健全な事業を営む融資先に対する資金供給の拒否や資金回収を行なうなどの不適切な取扱いを行なわないよう周知徹底を図るとともに、営業推進部門が不適切な取扱いを行なっていないかを検証しているか」という質問項目も盛り込まれているからだ。是非、この部分については、さらに詳細なご報告をいただきたいところである。
「『たかが1期だけの赤字ではないか』『債務超過にもなっていない』と思い、『ここまで求めてくるのか』と憤りながらも、すべては融資のためと割り切り、すべてに対応してきたところです。ところがメガバンクBは、平成14年10月に最終判断として、『折り返し(返済分)に対する新規融資は出来ない』という結果を通知してきました。要はていの良い貸し剥がしです。この貸し剥がしについては、メインバンクであるA地銀を中心に、政府系金融機関EとF信金の3行で肩代わりを進めて頂き、何とか難を乗り切りました」
結局、この中堅メーカーは、メガバンクBによる貸し剥がしに遭ってしまった。いわゆる「長期運転資金」の貸出をストップされてしまったのだ。しかし、この経営者の怒りは、そのこと自体よりも、その後のメガバンク側の対応に向けられている。
「返済を求めた上にペナルティーまで取る」
「そこで、メガバンクBに対して融資を返済することになったのですが、なんと中長期固定貸出に対して、期限前返済のペナルティー料を請求されたのです。貸し剥がしは、銀行の都合で返済を求めるものであり、企業の都合で返済するものではないはずです。しかしメガバンクBは、『契約時に期限前返済に対する念書も徴求している』『銀行として返済しろとは云っていない』と言い張って頑として応じません。貸し剥がしが社会的に問題視されているなかで、折り返しに対する融資対応も問題と思いますが、それよりもなによりも、銀行の都合で返済を求めておきながら、ペナルティーまで取るメガバンクBのやり方には憤りを禁じ得ません」「当社では、今回、メガバンクBの不誠実な貸し剥がしへの対応で、期限前返済違約金605万円、工場財団評価見直費用260万円、借換資金の担保設定費用220万円、合計で1000万円以上の余分な経費を支出しました。中小企業にとっては軽視できない大きな負担です」
法律的には、メガバンクBの立論に一日の長はあるかもしれないが、この経営者の憤りは理解できる。メガバンクBの都合で「長期運転資金」を引き揚げられ、大変苦しい思いで資金繰り対策をしたのに、それに加えて一〇〇〇万円も余計に取られたら、誰だって、怒髪天を突くだろう。
「こうした銀行の都合ばかりを押し付ける高圧的なメガバンクBの態度に対し、金融庁としてどのようにお考えになっているのか、ご対応をお願いしたいと思います。地方の財務局では全く耳を傾けて頂けませんでした」
この経営者の真摯な問い掛けに対して、金融庁はどのように応えるだろうか。それにしても、「地方の財務局では全く耳を傾けて頂けませんでした」というのは許し難い。公務員は、パブリック・サーバントであり、公僕である。公務員にとって、国民は誰であろうと、お客さまのはずだ。もし、そういう基本的なことすら理解できないのであれば、給料を返上してもらいたい。われわれが汗水垂らして稼いだ税金を、「公僕」でない方にタダで使わせるわけにはいかないからだ。 お客さまである国民からの問い掛けに対する金融庁からの真摯な回答を期待したい。
第40回「メガバンクの経営者はなぜ筋悪増資を決行するのか?」
(KFi〔KPMGフィナンシャル〕代表 木村 剛氏)
最終更新日時: 2003/03/24
第37回コラム「インチキ増資をモニタリングしよう」において、近頃のメガバンクによる増資に関するご意見を募集したところ、「本案件は第三者増資ではありませんが…」と断わった上で始まる長文が届けられた。差出人は、外資系証券Bから最近増資を受けたメガバンクAを2年前に退職した元行員。彼の問題意識は、以下の一節に尽きている。
「メガバンクAが行った増資に関しては、行員、株主、国民の利益という点から不可解な点が多いので一言申し上げたく存じます。そして、銀行の経営陣(特にトップ)が、なぜ、ここまで無理な増資をしてまでも国有化を拒むのかということの理由を推測してみたいと思います」
報道によれば、このメガバンクAは、最近外資系証券Bに対して優先株を発行し、その転換権を認めるとともに信用保証までサービスしている。そのメガバンクA出身者である彼は、「行員、株主、国民の利益から不可解な点が多い」と断言している。それは、どういうことを具体的に示唆しているのだろうか。彼の主張に耳を傾けてみよう。
「外資系に足元を見られているメガバンク」
「私が申し上げたいのは、メガバンクAが外資系証券Bから受ける優先株増資に関してのことなのです。私の理解によれば、銀行の当期利益から毎年かなりの金額の配当が、既存の普通株主に優先して、外資系証券Bに対して支払われることになるはずです。メガバンクAの平成14年3月期は赤字ですから、優先株への配当は決して軽い負担ではありません。優先株への配当支払は20年を超え、総額で2000億円近い負担になるようです」「そして、この出資の見返りとして、外資系証券Bの取引に関し、メガバンクAが信用補完を行うということも明らかになっています。こういう信用補完も、本来であれば、金融機関に手数料を支払うものであり、もしも無償であるとするなら、これもひとつの増資というものに係わる資金調達コストとしてカウントさ
れるはずです」「さらに、外資系証券Bは、この優先株に対して転換権をもっております。も
しも、この転換権を行使した場合には、この外資系証券Bが筆頭株主として経営権を握る可能性もあります。その場合には、行員に対して、リストラの大鉈をふるうことになるでしょう」
このように、メガバンクAの増資をめぐる諸種の懸念を指摘し、「今回の増資は、外資系証券Bに足下をみられているとしか思えません」とばっさり切り捨てた後、メガバンクAの元行員は、「行員、株主、国民の利益から不可解な点が多い」と主張している論拠を以下のように披露していく。
(1) 国民 : いま邦銀の収益源は、市場営業部門になっています。銀行によって異なるのではないかと思いますが、市場営業部門は銀行全体の6割から7割の収益に貢献していると言われています。この部門がそんなにも儲かっている理由は簡単です。マーケット金利がゼロだからなのです。調達コストがゼロなので、間違った運用さえしなけば必ず儲けることができます。ゼロ金利になってから、もう何年も経過していますが、いったいいつになったら、日本国民は日本の銀行から金利というものを正当に受けとれるようになるのでしょうか。今回の増資は見方を変えれば、本来国民が受け取るはずである金利を、外資系証券Bに対する配当という形で、メガバンクAが国外に支払ってしまうものだとも言えるのです。
(2) 株主 : 外資系証券Bに対して、優先株の配当が普通株に対して優先的に支払われることになりますから、同行の株主は半永久的に十分な配当を受けられなくなる可能性すらあります。実際、この増資を決行した後、ヘッジファンドから大きな売り浴びせを受けたメガバンクAの株価は3割方も下落しており、まさに大打撃を受けているといえます。
(3) 行員 : 最後に行員に関してですが、20年以上に亘って少なからぬ金額が、自分達の稼ぎから無造作に配当として支払われていくことに想いを馳せる必要があります。今回の増資を決定した経営陣は4〜5年でいなくなるので関係ないのでしょうが、現在25〜26歳の行員は違います。50歳の退職を想定すると、現在25〜26歳の行員は、これからの行員生活のすべてに関して、この配当の支払いに追われることになるということです。また、B社が大株主になって大リストラを行うというリスクとも向き合って、退職まで過ごすことになるわけです。この問題は、特に若い行員の方々にとって深刻な問題となると思います。
要するに、元メガバンク行員のA氏によれば、国民にとっても、株主にとっても、行員にとっても、この増資はマイナスに働くというのである。このような論考を経て、このメールの主は、結論部分に突入していく。
銀行経営陣が国有化に抵抗する理由
「今回の増資が国有化を防止する策として実行された背景には何があるのでしょうか。そこで、銀行経営陣が国有化に対して執拗に抵抗する理由として、考えられ得る理由をあげてみたいと思います」
(1) 退職慰労金が吹き飛んでしまうから
以下に示すのは、元長銀の取締役であった箭内昇氏によるコラムからの抜粋ですが、現銀行の経営陣が退職しない理由として説得力があると思います。
「銀行に対する公的資金注入論議が盛んだが、銀行経営者がかたくなにこれを拒
絶している最大の理由は、責任をとらされて退職慰労金が吹き飛ぶことを恐れて
いるからだ」
(2) 会計操作の発覚を恐れているから
これだけは、理由の一つであっては欲しくないと望んでいますが、可能性は否めません。要するに、国有化されると、不良債権を飛ばしていたスキームが世の中にオープンになってしまいかねない。そうなると、上述の退職慰労金はおろか、下手をすると刑事罰を食らってしまうことになるでしょう。これは、長銀の先例からも明らかです。
(3) 不良債権問題を解決したいという責任感から自分が不良債権を作った張本人なので、「自分のやったことの尻拭いは何とか自分でやりたい」という思いが強すぎるので、退職しないのだという見方です。少し浪花節過ぎるかもしれませんが、そういう人もいて欲しいと思っています。ただし、これまで採用してきたアクションは、傷口を治療するどころか、その傷口を広げているかもしれないことについては認識して欲しいと思います。
「私自身は正直どれが原因かはわかりませんが、つい先日退任されたマクドナルドの藤田田会長のように、銀行のトップにとっては、『経営陣として潔く責任をとって辞める』というのもひとつのオプションとしてあります。それなのに、なぜ彼らは退陣しないのでしょうか。私個人としては(3)であることを望みますが、銀行のトップは、本当に銀行の経営者として評価されるべきことをしているでしょうか」
このEメールの主は、悩みながらも最後に「どうやったら、このような増資をストップできるのか」ということを問い掛けている。そして、なぜ「銀行の経営陣がなぜ退任しないのか」ということについて、他の要因がないのかと訊ねている。
「商法において、代表取締役の行動は取締役会を通じて他の取締役がモニターを行い、さらにそれらの取締役を株主がモニターすることになっていますが、株主の多くは機関投資家で、取締役の多くがイエスマンだとしたら、誰がこの増資に歯止めを掛けられるのでしょうか」 「私はこの増資を批判しましたが、もしも、銀行経営という観点や株主の観点から良い点があると反論できる方がいれば教えていただきたい。また、『銀行の経営陣がなぜ退任しないのか』ということに関して、より説得力のあるアイディアがあったら教えてほしいと思います」
是非、読者の中で、彼の問い掛けに応えられる方がいたらメールを寄せていただきたい。彼が提起した問題は、日本の不良債権問題が長年解決してこなかった理由の一つを大きく抉り出していると思うからだ。私の見解は彼の見方に近いが、「(2)会計操作の発覚を恐れているから」という懸念を拭い切れないという点でより悲観的かもしれない。みなさんの意見をお聞かせ願いたい。