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2003/05/12 海外市場動向:アラン・グリーンスパン最後の聖戦(失われた「利下げ余地」)☆☆☆+☆ [住友ゴールド]
http://www.asyura.com/0304/hasan25/msg/1153.html
投稿者 あっしら 日時 2003 年 5 月 12 日 23:30:57:


米国にもデフレの可能性ありとの論調が高まってきた。デフレとは、継続的に物価
が下がる経済の状態をいう。

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)が、その政策決定の場である定
例のFOMC(連邦公開市場委員会、5月6日開催)に際して発表した声明文の件
(くだり)が論議を読んでいる。「インフレ率の好ましくない実質的下落の確立
は、わずかではあるが、すでに低水準にある上昇の確率を上回っている」という難
解な一文が、それである。

当欄では、以前から「背水の陣を敷くFRB」として何度か米国の金融政策につい
て取り上げてきた。早ければ2002年中にも正念場が訪れる可能性を指摘した
が、インフレ率については、その間に結果的には実際の開戦に至った中東情勢の緊
迫化などから、エネルギー価格の上昇(原油高からくるガソリン価格の上昇など)
もありやや関心が薄れていたが、ついにFRB自体が警戒を強め始めた。

「物価」と一言でいっても「消費者物価」もあれば「生産者物価」もある。消費者
物価のほうは、このところマイナスにこそなってはいないものの前年比1%そこそ
こまで落ちるなど低水準が続いていた。生産者物価については、既に2001年第
4四半期あたりから2002年の同期まで前年比マイナスを記録していた。以前
「価格決定権を持てなくなった企業」として、グローバル化が進み、安価な労働力
を大量投入する中国の台頭もあり、国際的な企業間競争が激しくなる中で、コスト
に対し正当な利益を乗せることが難しくなっている企業の状況を取り上げた。そし
てそれを「(世界的)構造変化によるデフレ」要因とした。人件費も物価であると
して、内外価格差がなくなっている状況からすると、いずれ日本国内の人件費も下
がるとしたが、いまではそれも現実のものとなった。人件費も物価の要素なのであ
る。

物価指数を考える際に、最近の原油価格のように価格変動の大きいエネルギーと食
料品の価格を除いた指数を「コア指数」と呼んでいる。気候や国際情勢の変化など
の影響が大きいそれらを除外することで、経済の真の姿を見極めようというもので
ある。そのコア指数で見た場合、米国の物価は「昨年12月以降は1%台にとどま
り、3月は1.7%。これは60〜66年以来の低水準」(2003年5月8日付
日本経済新聞)になった。しかもモノ(人件費の比率が高いサービス価格もある)
に限ると、コア指数は2001年12月以降、なんと16ヵ月連続で前年同月を下
回っているという。ただし医療費や教育費というサービス価格がいまでも上がって
いるため、モノの下落をカバーする形で全体のコア指数がプラスを維持しているこ
とから、米国はデフレに陥っておらずディスインフレ(上昇率の低いインフレ)状
態にあるというわけだ。

そこから読み解くと、失業率の上昇など発表される雇用統計の数字にNY株式市場
が敏感に反応する理由もわかりやすい。

企業がリストラを進め賃金が下がったり失業者が増えると、それは直接的に個人消
費に影響を与え(消費デフレ)、結局は企業業績に跳ね返る可能性がある。株式市
場にとっては悪材料である。また賃金の下落がサービス分野まで広がると、そのま
まサービス価格の下落となり、先ほど取り上げたように現在のディスインフレから
本格的なデフレ状態入りとなる。デフレ状態が続くと企業収益は落ち込む可能性が
高くなるため、株式市場はそれが懸念されるだけで先読みして下げることになるわ
けだ。

そして今、そのデフレの可能性をFRB自体が、警戒し始めたのである。

米国は2001年に1年間で11回も金利の引き下げを行ってきた。

これは今では有名な話だが、対応が遅れ真性デフレに陥ってしまったバブル崩壊後
の日本の失敗を、反面教師として先手を打ったものとされている。それが功を奏
し、住宅ローン金利の低下から住宅の新規購入や買い替えが株式バブル崩壊後も続
き、家具や家電という付随する消費も好調を維持するとともに、住宅価格自体の上
昇も続いた。金利低下による借り換え(リファイナンス)や金融機関の積極営業も
あって急増した住宅担保の使途自由型ローン(ホームエクイティ・ローン)の利用
で、キャッシュを手にした個人がますます消費を増やし、米国景気を支えてきた
(借金漬けの個人も急増)。

ところが景気の足取りが不確かでデフレも懸念されるなかで、手の内をみると残さ
れた利下げ余地は1.25%。これも“まだ125ベーシスポイント(債券用語で
1.25%の意味)もある”と解釈する向きもいるが、やはり“僅か125”とい
うべきではないだろうか。なぜなら昨年11月分を含め12回(合計5.25%)
の利下げ効果が、薄れてきたことを意味するからだ。それがあと数回の利下げでカ
バーできるか否かは、誰にも確信は持てないだろう。

いかに有効にカードを切るのか。

カードを切ると匂わせただけで、それを織り込みにかかる市場の反応もやっかい
だ。そして金利をゼロにしたときから、コントロール機能を失った日本銀行の例も
ある。すでにFRBは、金利引下げ余地がなくなった場合の資金供給(金融緩和)
につき昨年1月段階でシミュレーション済みとされる。そこには日本のように国債
だけではなく、なんと「金」の購入まで検討されたときく。是が非でもデフレの泥
沼入りは避けるというスタンスである。

考えてみると、中央銀行が自由にお札を刷れる体制(金本位制離脱)になり30年
余り経った。金本位を離れることで世界経済は大きく成長し、その効果は大いに上
がった。ところが、20世紀の最後にそれは世界バブルの崩壊(NY株バブルの崩
壊)という形に至った。以降、いわゆるペーパー・マネー(印刷機で自由に刷れる
お札)経済の不安定な時代が続き、その度合いも増す様相である。そのマネーの発
行体の世界的盟主であるグリーンスパンFRB議長の手腕に世界経済の先行きが掛
かっているとしたら、個人レベルでできる自衛策として選択肢としての金(現物)
の存在は、これまでにないほど意味を持つのではと思う。ただし、この状況での金
本位への復帰は、さらなる混乱を招くため論外と考える。(5月9日記)


金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎
※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、実際の投資にあたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。

http://www.sumitomo-gold.com/market/index.html


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