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ＵＢＳウォーバーグ証券会社・経済調査部チーフエコノミストの白川浩道さん（Hiromichi Shirakawa/ Chief Economist, UBS Warburg (Japan) Ltd.）は今日のポイントとして、「全ては地政学的リスク次第」を挙げる。
＜第２Q以降の調整圧力、地政学的リスク度合いに依存＞ 国内景気が、４−６月期以降、どの程度深い調整圧力に晒されるかは、「地政学的 リスクの顕現度合いに依存する」と語る。「米英の対イラク戦争がもたらす最も大きな問題 は、戦後の世界情勢の不安定化である」。簡単に言えば、反米感情の強まりによって、中東諸国や一部アジア諸国（北朝鮮も含む）の政情が大きく不安定化し、物 、人、資本の流れが長期間に亘って停滞してしまう可能性がある。これは、世界的な貿易・資本取引の縮小を意味し、それが世界景気の回復を妨げるものとなれ ば、「日本経済における調整圧力は大きく高まることになる」。イラク戦争が短期間で終息するに越したことはないが、本質的な問題は、戦争期間の長短ではなく、「戦後」である、と言う。
＜日本経済の安定をもたらしている「要因」とは？＞ 逆に言えば、そうした地政学的なリスク（＝不確実性）がなければ、日本経済の底割れリスクは小さいと言える。なぜなら、「日本経済の安定度合いはむしろ高まっているとみられる」からである。日本経済の安定をもたらしているのは、「個人や優良企業から、非優良企業への所得移転である」。すなわち、名目賃金の緩やかな低下や優良企業の合理化努力によって生み出されたキャッシュフローが、金融部門を経由して、非優良企業をファイナンスする構図が出来上がっている。そして 、その結果、経済全体では、雇用が維持されている。賃金と物価の緩やかな下落 が継続する下で、ジョブ・セキュリティが確保されている。このことから、循環的な個人消費の減退は生じても、個人消費が趨勢的に大幅に減速することは避けられている。個人は、雇用維持と引き換えの賃金下落を受け入れているのである。「不良債権処理の加速による産業構造改革＝中期的な生産性上昇、といった経済のアップサイド・リスクは全く展望できない一方で、企業倒産の増大、信用リスクの拡大、雇用不安の増大といった短期的なダウンサイド・リスクは抑制されている」
＜市場絶対主義と対イラク戦争間、どの程度の関係あるか＞ 昨年までは、短期的な痛みを嫌い、中長期的なアップサイドを犠牲にする、日本 の政策当局のスタンスを批判する海外投資家が圧倒的であった。日本は、非市場主義的であり、非資本主義的である、との批判である。しかし、「今年に入ってからは、日本の経済構造改革（産業構造改革、行財政改革）の遅れを正面切って批判する海外投資家は減っている」と言う。シニカルな見方をすれば、外人投資家は、「動 かない日本」を見捨てたということになる。だが、やや前向きな捉え方をすれば、外国人投資家は、徐々に日本的な経済安定のメカニズムを評価しつつある、とも言える。そして、その背景には、米国が90年代に推進した「市場絶対主義」に対する批判的な見方が、欧州投資家を中心に引き続き増加している、という事実がある 。市場絶対主義、株主重視主義と今回の対イラク戦争の間にどの程度の関係があるかについては、大いに議論の余地がある。ただ、欧州やアジアを中心にした海外投資家が米国的な経済システムのもたらす「プラス循環」にかなり否定的とな っていることはほぼ間違いない、と言う。
＜日本経済の相対的安定性が、今後、世界的に見直される可能性＞ いずれにしても、「日本経済の相対的な安定性が、今後、世界的に見直されてくる可能性がある」と見ている。日本の１−３月期の国内経済パフォーマンスが、欧米諸国に比べて（予想比）相対的に悪くないという認識も、海外投資家の日本経済に対する前向きな見方を下支えする可能性がある。その意味では、「日本政府の外交政策は極めて重要である」。日本政府に求められているのは、アジア経済（特に中国経済） との共存共栄を図るスタンスを明確に打ち出すことであるとして、こう続ける。「そこで、最も重要なことは、北朝鮮問題に関する対応で、韓国、中国との協調関係を確認することである」。今回のイラク戦争では、中国は、ロシアとともに、米国とは明確に一線を画している。日本が米国政府の姿勢を無条件に受け入れることはアジア情勢を不安定化させるリスクを伴うが、「そのリスクが、年後半の日本経済にとっての最大のリスクとなるであろう」と、懸念する。
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