最終更新日時: 2003/03/26
米英による対イラク戦争がついに始まった。今後の戦況がどう展開し、どう終結するか現時点でなお予断を許されないが、大方は1か月以内の「短期終結シナリオ」でほぼ一致している。たしかに米国勢の圧制的軍事力からして「長期化シナリオ」は可能性が小さい。 だから、ニューヨーク市場も「短期終結」が確実と読んで、株価もドル相場も堅調さをみせてきただけでなく、米国経済の復活への期待感を強めてもきた。米国のこうした株式市場の堅調さを好感して、東京市場も3月危機を杞憂とばかり、開戦後5日間程度で約400円も上げ、8500円前後を固める勢いだった。「短期終結シナリオ」が実現すれば3月危機は何とか乗り越えられ、デフレ深化を食い止める可能性が出てきたとの、観測が先週に市場に広がったからだった。
しかし、「短期終結シナリオ」が実現したとしても米英サイドの損害はかなりにのぼるとみられ、「短期終結=楽観シナリオ」と見るのは単純過ぎる。また、仮に「短期終結シナリオ」が大損害なく成就したとしても、「楽観シナリオ」にはなりにくい。この場合、米国経済が展望を開き、日本経済がデフレ克服のきっかけを見つけ出し、世界デフレ化は後退するとはとても考えられないからだ。
一般に市場(マーケット)、とくに米国の市場は物事を単純かつ短期的にとらえがちである。イラク戦争が「短期終結」すれば、経済は善循環課程に必然的に入るとの見方だ。だが、今回のイラク戦争は「短期終結」に関わらず日米経済や世界経済に二つの重大な意味を持っていることに注意しなくてはならない。
一つはイラク戦争が日米経済や世界経済が本質的に抱える「実体悪」を暴き出す効果を持つことだ。もう一つはイラク戦争を巡ってG7やG8に亀裂が生じたということだ。
前者はイラク戦争の有無や終結の長短などにかかわらず、米国経済、EU経済、中国経済、そして日本経済は構造的というか潜在的な不均衡を抱えていたという問題である。イラク戦争がこの構造的問題をいわば表面化させる効果を持ったということだ。今回の強引な米英の開戦決定は大小、強弱にかかわらず、世界的にテロ圧力を拡散させる。米国で欧州でアジアで中東などでテロ頻発が起こらないとも限らない。これが旅行需要の減退化や安全対策コスト増加を引き起こし、世界的需要を抑え込みかねない。
この結果、米国の消費需要の減少が顕現化し、米国経済の「ニューエコノミー・ドリーム」による供給過剰力が表面化してくる。しかも、米国では双子の赤字が拡大化し、ドル不安、株安が強まってくれば、米国経済の悪化が現実化する。もはや利下げのノリシロは少ない(FFレートは1.25%)。
EU経済も90年代の「ユーロ・ユーフォリア」がイラク戦争で消滅し、過剰供給力が現実化してくる。また、中国経済も90年代の「世界工場ドリーム」がピークアウトし、デフレの影が濃くなる。そして、日本経済は相変わらずの「先送りのツケ」が9月決算を控えてまたまたの金融危機を生起させかねない。
後者は以上のような米欧日そして中の世界経済の下方トレンドを調整する「場」としてのG7などの世界経済重役会が機能不全化しつつあることだ。米・欧・日の3国通貨は今後は「三弱化」するが、このことは国際金融システムが不安定化することを意味する。もはや各経済圏がバラバラかアウタルキー化にむかわざるをえないとのリスクだ。国際経済金融協調体制が揺らぐもとでは世界経済はデフレ化の様相を強めざるをえまい。EUも財政悪化が深刻化しつつあるほか、利下げの余地も少ない(政策金利は現在2.5%)。
以上のようにイラク戦争は「短期終結」になったとしても、米国経済を中心とする世界経済は戦後に「厄介な問題」を噴出させる公算が大きい。まして、犠牲が大きな形での「短期終結」の場合、「戦争後の世界経済」は深刻だ。この意味で「短期終結シナリオ」はあまりに表面的な単純な市場主義者の希望的観測といわざるをえない。イラク戦争とは世界経済だけでなく、国際政治でも、「一件落着」を意味するものではなく、封じ込められていた「厄介な問題」の蓋をむしろ開けてしまったのではないのか。「パンドラの箱」を開けて飛び出してきたのは「希望」ではなかったのだ。
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