株クオンツ「株式相場下げ過ぎの反発局面か?」大和総研・吉野氏QUICK株式クオンツ情報VOL.25大和総研 チーフクオンツアナリスト 吉野貴晶
氏03/03/25
【トピックス 】市場の分布のパラメータを用いた株式相場予測モデル
【マーケット動向】リターンリバーサル、モメンタムファクターから相場の方向
性予測
【スタイル動向 】国際商品市況からのバリュー・グロース予測
【セクター動向 】魅力度1位は商社。上位3業種は変わらない状況続く
【ファクター動向】ファクターリターン魅力度は大型バリュー株のリバウンドを
示唆
1.トピックス:「市場の分布のパラメータを用いた株式相場予測モデル」
大和総研クオンツチームでは、リターン分布の歪度を利用した相場予測を2年半ほど行 っているが、その有効性は比較的高かった。そこで、このアイディアを発展応用し、様 々なリターンの分布に関する指標を用いてTOPIXのリターンを直接予測するモデルを再構 築した。具体的には、以下の5項目を新モデル構築のポイントとした。@歪度以外の分布 パラメータの検討、A多くの分布に関する変数からの相場の方向性予測、Bパラメータ の月次変化、四半期変化も変数の候補に使用、CROE、益回り等のリターン以外の情報も 検討、D分布の「裾」等に関するパラメータに特に注目、の視点である。特に、最後のD に関しては注目したい点である。通常、統計的な処理では分布の平均から離れた裾の付 近は異常値として処理されてしまう。しかし異常値もその値をとる要因があるという事 実は無視してはいけない。異常値こそが相場に先行して動くものかもしれない。
こうした観点から歪度、尖度、ストレス点など108個のデータで相場の予見力がどの程 度あるか?を検証した。そして、最終的に因果関係も考えられる14指標を相場予測の変 数として考えた。実際のTOPIXの予測モデルは、14指標それぞれ個別に線形に予想リター ンを算出し、それを統合して推計TOPIXリターンを得た。つまり、2003年3月のTOPIXリタ ―ンの予測を行う場合には、2月の各指標の値を用いる。この場合の係数と切片項は直近 までの60ヵ月間のデータを使った回帰分析から推計した。当モデルでは2003年3月のTOPI Xは「-1.47%の下落」を予測していた。ただ2月末と比較するとTOPIXは既に-3.6%下落し ており(3月19日現在)、予測値を大幅に下回った。現在はむしろ下げ過ぎに対する反発が 期待される場面と見ている。
2.マーケット動向:「リターン分布の歪度から株式市場は下値模索を示唆」
足元のリターンリバーサルとモメンタムの傾向には特徴的な点が見られる。ファクタ ―リターンの動きを見ると短期の1ヵ月と長期の5ヵ年はリバーサルの傾向である一方、 中期の1ヵ年は上昇トレンドにありモメンタムとなっている。これは過去1ヵ月間、或い は長期の5年間に大きく下落した銘柄は市場と相対的に反発する傾向が見られる一方、過 去1年間では逆に上昇してきた銘柄がそのまま上昇する傾向にあることだ。つまり市場の リターンリバーサルとリターンモメンタムの動きにハコウ性が見られることである。
実はこうした局面は、日米同時多発テロが発生した2001年後半にも見られた。当時もT OPIXは大幅に調整している。そこで、こうした株式市場の方向性と期間別のリバーサル 、モメンタムの有効性には深い繋がりがあると考えた。具体的に、リターンリバーサル とモメンタムは年限別でファクターリターンが異なることから4つの期間(短期/中期/ 長期/超長期)に分類し、それぞれ因子分析により共通因子の抽出を行った。抽出した共 通因子を説明変数、TOPIXリターンを被説明変数として、重回帰分析を行った結果、相関 係数が高いとはいえないが、相場の方向性を予測する上である程度の有効性が見られた 。同手法からの予測からも、足元の3月の相場は強い下げ過ぎ感が見られることが示され た。
3.スタイル動向:「国際商品市況からのバリュー・グロース予測」
国際商品市況に見る農産物と工業品の相対的な値動きと、バリュー・グロースのスタイ ル物色傾向に相関関係があると想定し、そこから今後の国内株式相場のスタイルの方向 性を探った。具体的には、2つの国際商品指数から作成した指数(CRB先物指数÷JOC指数 :以下「CRB/JOC指数」)と、バリュー÷グロース指数(以下「V/G指数」)の推移を取り上げ た。CRB先物指数は指数に占める農産物のウエイトが高く、JOC指数は工業原材料のウエ イトが高いため、これらの比より農産物と工業品の相対的な値動きが観察できると考え た。また、農産物に比べて工業品が高い局面では、ハイテク関連銘柄等の値上がり傾向 が見られ、グロース優位になると予測した。
実際にCRB/JOC指数とV/G指数の相関関係を詳しく調べるため、各指数の変化率の相 関係数を計算すると、こうした傾向は強く見られた。ただし、ある程度のトレンドを捉 える為、変化率は3ヵ月前の実績に対するものを使用した。また、CRB/JOC指数を今後の スタイル物色傾向の予測に利用するには、CRB/JOC指数にV/G指数に対する先行性があ ることを確認する必要がある。そこで、2つの指数の時差相関係数も計算した。その結果 、CRB/JOC指数とV/G指数の間には正の相関関係があること、及びCRB/JOC指数はV/G 指数に対して約9ヵ月の先行性があることがわかった。この約9ヵ月の先行性があること を用いて、今後のスタイル物色傾向を、回帰モデルを使って予測した。この結果、2000 年以降は相場のトレンドはバリュー優位、2001年後半から足元まではスタイルの方向性 が不透明になっていたが、今年後半にかけて今後ともバリュー優位で推移すると予想さ れる。
4.セクター動向:「魅力度1位は商社。上位3業種は変わらない状況続く」
大和総研投資戦略部クオンツチームではセクターアロケーションモデルを作成してお り、月次でアロケーションの提案を行っている。モデルは、バリューファクター、グロ ―スファクター及びテクニカルファクターであるスペシフィックリターンファクターの3 ファクターから構成される。これらを統合して業種ごとに総合的な投資魅力度を算出す るが、基本的にはバリュー、グロースのミクロファクターの寄与が大きい設計である。
3月の相場も大幅調整となっており、総合魅力度に対しては、バリューファクターか ら算出した魅力度に加えて、スペシフィックリターン魅力度の寄与が大きい。総合魅力 度の第1位は、スペシフィックリターン魅力度で第1位でもある「商社」であった。足元で 商社は相場全体と同様にやや調整しているが、過去最高益更新などを背景に引き続き堅 調なモメンタム推移が期待される。加えて、バリュエーション面では過去最低水準であ るため、割安感が強い。続く第2位「自動車」、第3位「建設」も順位の変動はあったものの 、上位3業種の魅力度は変わらない状況である。バリュー魅力度の第1位は「建設」であっ た。バリュエーション面から見た魅力度は依然として高いものの、厳しい事業環境の下 では淘汰再編の動きにも注意が必要である。第2位の「自動車」も、北米市場を中心とする 慎重な見方から株価の上値は重いものの、来期業績拡大を踏まえるとバリュエーション 面で割安感がある。一方、グロース魅力度の第1位は「ソフトウェア」である。ただ、業界 を取り巻く環境は一層厳しさを増し、勝ち組と見られた企業でも業績が悪化する例が出 てきており、今後は一段と選別基準が厳しくなるだろう。第2位の「通信業」では、年後半 からのデータ通信の寄与への期待が高まる。特に、年前半はKDDI、後半はドコモに注目 したい。
5.ファクター動向:「ファクターリターン魅力度は大型バリュー株のリバウンド示唆」
3月のファクターリターン魅力度の予測は、前月の予測結果とほぼ同様となった。企 業規模面では小型株が上昇(企業規模のICがマイナス)、リターンリバーサルが有効(リバ ―サル&モメンタムのICはマイナス)であった。ただ、1ヵ月、2ヵ月程度の超短期はモメ ンタムが有効となっている。これは、最近の相場の物色動向として前月と似ている状況 が続いているためと考えられる。一方、バリュー、グロースの観点で見ると、バリュー 系指標が有効であった。自己資本利回り、IC÷EVの典型的なストックバリューと売上高 ÷時価総額、経常益回り等のフローバリュー指標の効果が高かったようだ。同じフロー バリューでも、益回りやEBITDA÷EVの効果は低下した。本業の利益やCFに対するバリュ エーションの効果が高まったためであろう。EBITDA÷EVは有利子負債の高い銘柄にはペ ナルティを与えるために信用リスクを考慮したバリュー指標の意味を持つが、足元はや や信用リスクへの懸念に一服感があることから同指標の有効性が低下したようである。
尚、足元のファクターリターン魅力度の予測は、やや大型のバリュー優位を予測して いる。売られ過ぎ感が強い大型株のリバウンドを示唆しているといえよう。
<吉野貴晶氏略歴>
1965年生。89年千葉大学法経学部卒、岡三経済研究所入社、クオンツ分析を担当。山一 証券を経て2002年から現職。クオンツ人気調査ランキング1位(2003年3月24日付日経金融 新聞)。
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