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ファンド戦略の優劣はどこで決まる?
2003年3月11日
ファンドへの投資は長期が基本。ファンド自身もファンド・マネージャーが1度投資した株や債券は長期保有が望ましく、短期で頻繁に売買を繰返すファンドは駄目という意見もあるけどそれは本当?
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日本の投資信託のパフォーマンスが市場平均と比べても芳しくない理由に、「回転売買率の高さ(短期の売買を繰返すこと)」が一時よく取り上げられました。売買を繰返すたびにファンドは証券会社に手数料を支払わなくてはなりませんので、その売買手数料がファンドのパフォーマンスを悪化させている大きな原因であるというのです。『敗者のゲーム』著者のチャールズ・エリスやインデックス・ファンドで有名なバンガード・グループの創始者ジョン・ボーグルなども、上記の理由から短期売買を行うファンド・マネージャーを非難しています。また、彼らは、個々のファンド・マネージャーが市場全体を上回ることは難しいと考えているので、底値で買って天井で売ろうとする行為自体が愚かで、長期的なパフォーマンスの悪化につながると考えています。手数料については非常に重要な問題だと思いますが、ファンド・マネージャーの能力に対する彼らの見解は少々辛口すぎるのではないか、というのが私の意見です。
ファンドに投資するということは、あなたの大切な資金を、どの銘柄にどのタイミングで投資するかについて、専門の信頼できるファンド・マネージャーに預けるという行為です。ファンド・マネージャーにとっては頻繁な資金の流出入がないほうが運用しやすいわけですし、運用資金の安定性の恩恵は最終的にファンドの投資家自身に返ってきます。ファンドの投資とは、突き詰めれば投資家とファンド・マネージャーの長期の信頼関係の構築に他ならないのです。もちろん、投資したファンドの運用が下手であることがわかれば早めに見切る必要はありますが、投資する段階ではファンドへの投資は中長期での投資を前提に考えるべきです。
しかし、それでもってファンド・マネージャー自身が株や債券の短期売買を行うが悪いと考える理由にはなりません。ファンドへの投資の期間と、ファンド・マネージャーの投資期間は全く別問題です。もちろん、短期売買をするマネージャーが嫌いであればそのようなファンドへ投資する必要はありません。しかし、信頼足りうるマネージャーであれば、短期売買を行うマネージャーに自分の資金の運用を長期に渡って委託することも合理的な投資行動と考えることができるのです。
短期売買の正当性を検討するために、以下の2つの投資戦略を想定してみます。
戦略A:ある銘柄について、上昇・下落の予想を年に1度行い、その時に売買を行う。
戦略B:ある銘柄について、上昇・下落の予想を毎日行い、売買も毎日行う。
非常に単純化していますが、戦略Aは長期投資家(1年で長期投資といえるかどうかはここでは本質的なことではないので気にしないでください)を、戦略Bは短期投資家(投機家と呼ぶ人もいるでしょうがここではその議論は無視します)を想定しています。また、単純に戦略A、戦略B両戦略共に勝率を6割としましょう。それでは、1年後どちらの戦略の方が収益をあげることができるでしょうか。
戦略Aの方は、1年で1度しか勝負できませんので、勝率6割であれば勝つのも負けるのも運次第となってしまい、大勝ちする可能性もあるかもしれませんが、大負けする可能性も十分にあります。一方、戦略Bは、1年間で約250回勝負をすることができます(1年で市場が開いている日数)ので、勝率に従えば150勝100敗程度の成績を望むことができ、大幅ではないもののそれなりの収益を稼ぐことができそうです。もちろん、売買が多い分売買コストもかさむので、一度の投資金額が小さい投資家であればむしろ損失が出てしまうかもしれませんが。
この例からわかるように、単純に一銘柄の投資を前提とした場合、勝率が5割以上であれば長期投資家よりも短期投資家の方が勝負回数が多い分有利です。長期投資家は投資銘柄が少ない状態では博打と変わりませんので、銘柄数を多くすることによりパフォーマンスの安定化を図ることができるようになります。なお、空売りを行わない通常のファンドの場合は、銘柄数が増えれば増えるほど、市場全体のパフォーマンス(日本株であればTOPIX等の指数値を参考)に似てきますので、勝ち負けの判断は市場全体との比較で行われることとなります。
先ほどの例では、戦略A、戦略B共に勝率を6割としましたが、投資判断の際に重視する事柄は大きく異なると考えられます。長期投資家であれば、個別の企業のバリュエーション指標や経営陣の質、潜在的な成長性、同業他社やその産業自体の動向などよりファンダメンタルズの調査を重視するでしょう。一方短期投資家は、他の投資家動向や板情報、売買高、テクニカル指標など、日々の市場の需給動向の分析を重視することと思われます。また、短期投資家の場合は、コンピューターを使って自動化しない限りは、それほど多くの銘柄を扱えないため、投資対象とする銘柄を絞る傾向があると考えられます。
先の2つの戦略は、非常に単純化した例でしたが、戦略Aは投資信託や年金などのファンド・マネージャーの行っていることに近く、戦略Bは証券会社の自己売買部門のディーラーの行っていることに近いといえます。もちろん、実際のファンド・マネージャーは、通常1年に一度以上の頻度で銘柄を見直しますし、逆にひとつの銘柄を1年以上保有する場合も多々あります。また、売買の際に需給動向を無視するわけでは必ずしもありません(なお、売買タイミングについてはファンド・マネージャーではなく、専任のトレーダーに任せているところもあります)。証券ディーラーも、ひとつの銘柄を1日で常に手仕舞うわけではありませんし、またファンダメンタルを無視するわけでは必ずしもありません。
ここで、ファンドの話に戻りたいと思います。一般的に通常の投資信託であればファンダメンタルズ重視となり、短期というよりは長期的な投資を行っているといえます。しかし、他のファンドに比べて回転売買率の高いファンドであれば、どれだけ短期売買を行うための情報を収集しているかということがポイントとなってきます。ただ単に、ファンダメンタルズを見ているだけで、たまたま株価が上がったから利喰って、株価が下がってしまったから損切るといった形で売買を繰返すファンド・マネージャーであれば、証券会社のいいお客となるだけで終わってしまう可能性が高いと考えられます。無能なファンド・マネージャーの短期売買はパフォーマンスを悪化させますが、有能なファンド・マネージャーの短期売買はパフォーマンスを安定させる効果が期待できるのです。
ちなみに、いろいろと話題となることが多いヘッジ・ファンドですが、投資信託や年金のファンド・マネージャー以上に、証券会社のディーラー出身のマネージャーが多く存在します。ヘッジ・ファンドの中には、毎月毎月プラスの収益を挙げるものが存在しますが、そうしたファンドの多くは、高い回転売買によってパフォーマンスの安定化を図っていると考えられます。
齋藤啓幸
提供:株式会社FP総研
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