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遺伝子工学が人類を滅ぼす? Mark Baard
2003年4月16日 2:00am PT ボストン発――生命倫理学者や科学者たちは、遺伝子工学などの最先端技術がもたらす将来の危険性を検討しはじめている。これらの技術が原因で、人類がいくつもの階級に分かれ、互いに殺し合う日が来るかもしれないというのだ。
金や権力をもつ人々は、遺伝子技術を利用して自分の子どもを賢くしていく。一方で、こういった特権を持たない貧しい人々の子孫 は、二流の人間と見なされ奴隷階級を形成するという。ジョナサン・スウィフト作の『ガリバー旅行記』に登場する、人間の姿をした野獣「ヤフー」のように。
マサチューセッツ大学アマースト校で進化生物学を担当するリン・マーグリス教授は、人間による自分たち自身の派生種の創造は、人類の進化における劇的な転換点になるだろうと語った。
「こういった分断が、必然的に人類の終焉につながる危険性がある」(マーグリス氏)
ボストン大学の『長期的未来研究センター』(Center for the Study of the Longer-Range Future)が主催する『人間性の未来』シンポジウムでは、マーグリス教授をはじめ、たくさんの参加者が意見を述べた。
一部の生命倫理学者は、DNAの遺伝子操作によって高い知能指数(IQ)や強靭な体力などの特質を獲得しながらも、自分たちより劣っていると感じられる存在に対して攻撃的という、人類の古くからの特質も残してしまった人類が、劣った人々を攻撃する、というシナリオも想定している。
ボストン大学公衆衛生大学院保健法学部の学部長を務める生命倫理学者のジョージ・アナス氏は、「われわれが自分たちよりずっと賢い人間の集団を創造すれば、その集団はわれわれを殺したいと思うかもしれない。あるいは逆に、われわれがその集団を殺したくなる可能性もある」と述べた。
アナス氏は、20世紀における人種差別や大量虐殺といった人類社会の暗い歴史を取り上げ、遺伝子工学などの最新技術の利用がさらにひどい結果を招く可能性があると示唆した。
「100年の間、大量虐殺を抑えることすらできない私たちに、種を改変する資格などない」とアナス氏。
アナス氏は、遺伝子の改変によって強化された人間がいつしか危険な存在になっていく例として、フィリップ・K・ディック氏の小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を引用した。そして、生殖細胞に遺伝子操作を施すことを禁止し、科学者が新たな発見をした場合にその安全性と有効性を証明することを義務付ける、世界的な条約機構の創設を提案した。
たちの悪い科学者を逮捕することもあり得るアナス氏の提案を聞いて、マーグリス氏とカール・セーガン氏の息子であるドリオン・セーガン氏、カオス理論家のミッチェル・ファイゲンバウム氏などの著名な思想家は怒りの声をあげた。
マサチューセッツ工科大学(MIT)脳と認知科学学部のスティーブン・ピンカー教授は、「SF小説を引き合いに出し、政府の権限を強化しようとするアイディアには疑問がある。その提案では、科学的研究を容易に弾圧できるような委員会の設置を勧めていることになる」と述べた。
ピンカー氏は、世界規模の取締り機関は必要ないかもしれないと考えている。その理由として、未来学者の予測は、メディアが飛びつくような警告を出しているくせに、実際の科学界にある困難な課題のことがわかっていない、というのが大きな理由だ。こういった困難があるため、10年から20年のちの生活は現在とは今とほとんど変わらないはずだと、ピンカー氏は考えている。
ピンカー氏は、生殖細胞への遺伝子操作やデザイナーベビー(日本語版記事)の誕生は避けられないとする意見にも反論した。「音楽的才能のある遺伝子が作れるなどと期待してはいけない。脳は単なる才能の入れ物では無い。驚くほど複雑なものだ。知的能力の向上に一貫した効果を示す遺伝子など、まず存在しないだろう」
遺伝子工学に伴う危険性を聞いただけで、たいていの親は特別な才能など求めなくなるはずだ、とピンカー教授は言う。IQをほんの少し上げようとするだけで、身体のどこかが麻痺するリスクが一気に高まるとしたら、あえてチャレンジする理由があるだろうか、というわけだ。
「親ならば、子どものIQを高めたいという気持ちより、子どもを傷つけたくないという気持ちの方が勝るのではないだろうか」とピンカー教授。
たとえ、新しい人種をうまく誕生させることができたとしても、それが人類なのか、人類ではないのかを決めることは難しいかもしれない。
ギリシャ時代からルネッサンスまでの哲学史を扱った『理性の夢』(The Dream of Reason)の著者であるアンソニー・ゴットリーブ氏によると、人間は大きな技術的進歩を遂げるたびに、人間性とは何かという問題について考えを変えるという。
ゴットリーブ氏は、陶器職人の技から影響を受け、造物主を神聖な陶工として描いたプラトンの『ティマイオス』から、動物も人間の身体も機械だと主張したデカルトまで(ゴットリーブ氏は、デカルトのぜんまい仕掛けへの強い興味をこの主張と結び付けている)、人間性とは何かという問いの歴史をたどっている。
「われわれは現在、思考はおろか遺伝子まで、一種のコンピューターであるかのように考えている。しかし、これが人間性とは何かという問いに対する結論なのだろうか? たぶん今後も、量子コンピューターやストリング理論、またはその他の技術によって、われわれは自分自身についてまた別の形で考えるようになるだろう」とゴットリーブ氏は話している。
『複製されるヒト』[邦訳翔泳社刊]を著わしたプリンストン大学の分子生物学教授であるリー・シルバー氏は、残念なことに、人間の本質とは何かという現時点での理解に基づいて、われわれはいくつかの選択をせざるを得ないだろうと語っている。
「われわれは、遺伝子と環境の両方をコントロールできる新しい時代に突入した。そして最もふさわしい種が、選択した方向へ他の人々を率いていくことになる」
[日本語版:鎌田真由子/合原亮一]
http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20030418206.html