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掲載日:2002年8月27日
「言葉は生き物」とされ、その使われ方は時代とともに違っているといわれる。その中で出てくるのが、伝統言語と現代言語との相違だ。外来語を多く取り入れたり、表現を短縮したりする現代的使用を「乱れ」ととらえ、是正を求める者がいる半面、特に若い世代の中にはそうした傾向を「格好良さ」と見る者がいる。最近では、国語を最も誇りとし、大切にもしているフランスで、英単語の“侵略”が社会問題となったばかりだ。
独特の声調と文字を持つタイ語もその例外ではない。英単語の使用過多にとどまらず、声調にも乱れが出始めていると懸念する声が出ている。タイでは1990年代初めに、タイ語の乱れをテーマにしたポップミュージックが大ヒットしたこともある。そうした中、同国で最近、本来のタイ語を見直し、正しい使い方を広めるセミナーが各地で開かれた。若者たちの間で日に日に変化するタイ語と、伝統的なタイ語をどう結び付けるのか。危機に直面しているといわれるタイ語の現状を探ってみた。
【バンコクIPS(チャヤニット・プーンヤラット記者)】
タイ語は独特の発音と綴り文字を持つ言語として知られる。同国人口6300万人のうち80%を超える人たちが日常的に使っている言葉でもある。
そのタイ語に今、乱れが生じている、との声が上がり始めている。先月29日は「タイ語の日」とされ、この日、タイ各地ではタイ国民の自己証明ともなる「タイ語」の現状などを考えるセミナーが開催された。
「タイ語診療所へようこそ」−セミナーにはこうした標語が掲げられ、タイ語を日常的に使うタイ人のためのタイ語講座が開かれた。
その目的は、タイ語が今、どのような状況で使われ、話されているかなど、即ち「危機に直面しているタイ語の現状」を国民に分かってもらうことだ。
▽タイ語文字の祖はラムカムヘン王
国語とされる現在のタイ語に加え、タイには北部の山岳少数民族が使う言語など計60種類の言語があり、その中には消滅の危険性が高まっているものもある。
タイ語の源流は中国南部に住んでいた「タイ族」が使っていた言葉だ。タイ族は長年にわたって南へ移動を続け、最終的にタイに定住したとされる。
タイ族は、モン族といった先住民を制圧し、13世紀までには東南アジア北部と中部地域、即ち現在のタイ国土に広く定住した。タイ族はモン族に自分たちの言葉を使うよう強制した。
独特のスタイルを持つタイ語の文字は、13世紀にタイを治めたラムカムヘン王が考え出したとされる。その碑文にはラムカムヘン王がタイ語文字を考案したと明記されている。
文字の基本となったのは仏典に使われていたパーリー語とインドで発達したサンスクリット語で、さらにこれにモン語やクメール語などが加わってできあがったとされる。
▽タイ語に5つの声調
「現在、正しいタイ語を話せる者はそう多くはない」とタイ語の乱れに危機感を強めるのは、ダムロン・プッタン上院議員。タイ文化委員会が主宰したタイ語セミナーに出席したダムロン議員はこう断じ、タイ語の現状を嘆いた。
タイ文化とタイ語の正しい普及に力を入れるダムロン議員はさらに、「間違ったトーン(声調)でタイ語を話すタイ人がいる。綴りもあやしく、使い方も間違っていることがある。タイ語の文章中に英語を入れて話す者もいる」と述べ、タイ語の乱れを厳しく指摘する。
タイ語は中国語と同様に単音節言語で、平音、低音、下声、高声、上声の5つの声調を有している。音節が表す意味は、これらの声調によって決まる。
たとえば、「カオ」という言葉がある。これを低音で発音すれば、その意味は「ニュース」となる。上声なら「白色」、下音なら「コメ」になるといった具合だ。
しかし、評論家たちに言わせると、現在、この声調に乱れが起き始めており、その最大の理由は「怠惰さ」という。つまり、若い世代の者たちは単語が持つ元来の声調を変えることで、格好良さを見せたいとしているというのだ。
▽英語使用が急増
もうひとつの懸念は英語の“侵略”だ。英語の単語がやたらとタイ語会話の中に入り込んでいるという。タイ語を補強するのに使われるのではなく、同じ意味のちゃんとしたタイ語がありながら、英語に置き換えられているという。
製品名、会社名、さらに場所の名称などの固有名詞に英語が使われている。「エンポリアム」といえば、ショッピングセンターのことだ。この傾向はさらに強まっている。
こうしたタイ語の現状に関しダムロン上院議員は「多くの国民がタイ語のこうした深刻な現状に気付いていない。このまま放置すれば、間違いが当たり前となり、日常的に使われるようになってしまう」と危機感を募らせる。
「タイ語の日を設けるとは、何とも皮肉だ」とするのはセミナーの討議に参加したタイ人の教師。「タイ人はタイ語を誇りに思うべきなのに、正しいタイ語を使うのを怖がっているようだ」と指摘する。
▽期待されるメディアの協力
こうしたセミナーのもうひとつの狙いはタイ地方の多様性を討議することだった。「地方の人たちは自分たちの言葉(方言)に誇りを持つべきだ。タイ文化の独自性の表れであり、タイ語の多様性を示すものだ」と主張するのはダムロン議員。同議員によると、タイには南部、北部、東北部、そして中部の4地域にそれぞれの言語があるという。
このうち最後の中部タイ語(バンコク・タイ語)が現在、学校教育の中で教えられ、また、テレビ・ラジオのメディアなどでも使われ、全国共通語となっている。
今回のセミナーでは、こうした社会的に影響のある部門を総動員して、現代タイ語が抱える問題点を国民に分かってもらうべきだとの意見が主流を占めた。ダムロン議員は「その意味ではメディアが果たせる役割は大きい」とし、正しいタイ語の普及にメディアが一役買うよう期待を表明した。
さらに同議員は、特に若者たちはテレビやラジオを通じてタイ語を学んでおり、それだけに、テレビなどの出演者がタイ語を間違って使った場合、若者たちは「変わっていて面白い」と思い、即座にまねをする、と説明した。
これに対しテレビのニュースキャスターを務めるサイサワン・カヤンインさんは「テレビは番組で使うタイ語に責任を持つべきで、十分に気を付けながら使用すべきだ」との意見を明らかにした。
さまざまな意見が出されたセミナーは「タイ語をめぐる問題は一夜にして解決はできず、次の若い世代に引き継ぐべき問題」との結論を出して終了した。
▽乱れには大人にも責任
17歳になる高校生ティティコーン・チャンチョットさんはこう言う。「タイ語は私たちの国語であることは認めます。でも、言葉は生きており、百年前のタイ語を今も使うのは無理があると思います」と、若者らしい意見を聞かせてくれた。
ティティコーンさんは、新造語のタイ語にしても、英語にしても気に入っており、自分をそうした言葉でよりよく表現できると話す。
英語がタイ語に“侵入”している例としては「モダン」という言葉がある。最近、若いタイ人が話す言葉の中に「ダン」という表現が入り混じることが多い。この「ダン」は「格好よい」とか「先端を行っている」とかの意味で使われている。
ティティコーンさんは「確かに、ひとつの文の中で、英語とタイ語が入り交じるのはいいとは思わないけれど、教師や、政治家、それにテレビに出ている大人だって使っています。そうやって話しているのをカッコイイと思う人もおり、真似をするわけです」と話し、懸念されるタイ語の乱れには大人たちにも責任があるとしている。
ティティコーンさんは最後に「言葉の役割は自分の言いたいことを相手に伝えること。相手が理解できない言葉は使う必要はありません。理想的なのは、伝統的なタイ語と現代のタイ語とが折り合える接点を見つけることだと思います」と締めくくってくれた。
【メモ】ラムカムヘン王
スコタイ王朝第3代の王。1279年ごろに即位し、スコタイ王国の勢力圏拡大に努め、ビエンチャン(ラオス)、ペグー(ビルマ)、ナコンシタマラート(現タイ南部)にまで版図を広げた。特に有名なのが1292年にタイ語で刻まれたラムカムヘン王の業績を称えた碑文。この中でタイ文字は同王の発明と記され、王国が「水中に魚あり、田に稲あり」と、大いに栄えた様も描かれている。また、仏教を広めたことでも知られ、今日のタイの原型が同王国時代につくられたともいわれる。