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●COLUMN [12] 東京バイツ 第126回 執筆=福冨忠和
ニシ氏、天馬氏らの住民登録をめぐる、手続き上の疑惑について
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昨年から東京湾に紛れ込んでいたアゴヒゲアザラシが、頻繁に顔を見せていた横浜
市西区の帷子川から姿を消し、埼玉県越谷市の中川に姿を現したらしい。年末から
年頭にかけてのTVを中心に、メディアを巻き込んだ大騒動の中、横浜市西区はこの
アザラシを西区役所に住民登録し、さらなる話題づくりにはげんだ。
この通称「タマちゃん」をめぐる騒動、その人気の過熱ぶりや、保護/放任をめぐ
る議論など、特に何も言うことはないのだが、この「住民登録」については、いま
いち感心しないのだ。もちろん世界中に、この手の「名誉市民」に類するお遊びが
あり、市長がカギを手渡すロンドンの例などはよく知られている。これは都市が城
壁に囲まれ、出入りが自由でなかった頃の名残りだろう。名誉市民が実際のロンド
ン市の住民と同じ義務や権利を有するものではないだろう。
しかし、住民登録は制度的に機能しているものでもあり、それをホンモノの行政機
関が音頭をとってシャレにしてしまうというのは、いかがなものか。
実際、2月12日に住民票交付のセレモニーが行われると、22日には「『外国人』の
タマちゃんが住民票をもらった。私たちにも住民票を」と訴える同区内の在日外国
人が「タマちゃん友人会」を開き、アザラシの扮装をして住民登録や参政権を求め
る訴えを行っている。同じシャレにしても一枚上手の彼らのアピールを、西区や横
浜市がまたシャレでかわした、という話は聞かない。タマちゃん騒動があって、あ
わてて川の清掃などを始めた、その気持ちはわかるけれど、不便・不当な思いをし
ている外国人の居住環境に対する対応と、開きがありすぎる気もするのだ。
加えて住民登録制度については、改正住民基本台帳法施行以後、いわゆる住基ネッ
ト、住民コードの取り扱いを巡って法案廃止を含む批判と議論がある。横浜市の中
田市長もあいまいなスタンスながら、問題点があることを認めているはず。その最
中で、セレモニーとはいえ、ちょっとデリカシーに欠けている気がしていた。
住民登録のセレモニーでは、「ベーリング海方面を経て東京都多摩川、鶴見川」か
らの転入届が戸籍課長に提出され、区長がタマちゃんの代理の幼稚園児に住民票を
手渡した、と報道されている。名前はニシ・タマオ、住所は西区西平沼町帷子川護
岸。住民コードは「しあわせ1番」とのこと
( http://www.city.yokohama.jp/me/nishi/tama.pdf )。
もちろんこの住民票は有効ではない(あたりまえだが)。
まず、住民基本台帳法には「第三十九条 この法律は、日本の国籍を有しない者そ
の他政令で定める者については、適用しない。」という項目があり、先の外国人住
民が住民登録できず、選挙に参加できないひとつの根拠になっている。もちろん日
本に長年居住しているなどの要件を満たして帰化申請し、国籍を取得することは可
能だが、ニシ氏の場合は当てはまらない。日本国籍を持つ誰かと婚姻したとか養子
になったことなども考えられるけれど、その気配も見あたらない。ニシ・タマオ氏
の転入届に対して、西区役所はまず外国人登録を行うよう指導すべきだったのだ。
ただ、「ベーリング海方面を経て東京都多摩川、鶴見川」から転入したニシ・タマ
オがもともと日本の国籍を有しているとすれば、親が日本人で、ベーリング海のロ
シアの領海である可能性が高い地域で出生したニシ氏がロシアの日本領事館に、出
生届と共に「国籍留保届」を提出していたことになる。同様のケースで、日本人と
して日本国内に居住しているフジモリ元ペルー大統領がいる。フジモリ氏は1991年
の軍部による民間人虐殺事件の容疑者として、ペルー政府を通じてICPO(国際刑事
警察機構)から国際手配されている。しかし日本政府は、フジモリ氏が日本国籍を
保持しており、日本とペルーとの間には犯罪者引き渡しの協定がないことから、身
柄の引き渡しには応じていない。ここにもニシ氏の場合と同じような保護/放任を
めぐる議論がある。
まあ、そんな例を持ち出すまでもなく、ニシ氏は9月12日に帷子川に転入したのに、
14日を越えて転入届を出さないでいるのは違法だし(罰則は無いが)、たとえ日本の
国籍を持っていても、ある宗教団体の信者だと住民票の受理を「公序良俗に反する」
という理由で拒否されるケースもあるわけで、このイメージの落差は、当事者に
とっては差別的というほか無いだろう。
ニシ氏だけでなく4月7日に新座市に住民登録された鉄腕アトム(推測本名:天馬トビ
オ)氏についても、かなり手続き的な疑問が残る。ロボットが人間かどうかはとも
あれ、アトムの親は天馬博士なのか、あるいは後から生まれた(お茶の水博士に作
られた)「おとうさん」「おかあさん」なのか。出生地は科学省精密機械局だとし
ても、戸籍上は誰の息子なのか、などなど。
そんなふうに考えていくと、シャレ半分としても、もうやめにしないですか、とい
いたくなってくるのだ。
ちなみに、埼玉県か越谷市役所の職員と思われる人が「(転入したニシ・タマオ氏
の)住民登録はどうするか」というTVレポーターの質問に、役人のカガミのような
返答をしていた。「本人から転入届が提出されないと、住民登録はできません。」
たぶん越谷はいい町だ。
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
vwyz@jca.apc.org
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http://pcweb.mycom.co.jp/column/bytes.html
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