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「ブッシュイズムの米国こそ『ならず者国家』だ」
90年代の「歴史教科書論争」や「従軍慰安婦問題」の論客として知られるが、本来の専門は、日本近代文学。とくに夏目漱石の研究で名高い。
父が世界労連の職員として、プラハに赴任していたため、12歳までソ連大使館付属学校で過ごした。
「プラハの中国、北朝鮮大使館で、親と共に夕食をごちそうになって、その後、映画室で、北朝鮮や中国の抗日パルチザンの映画を繰り返し見た。その時、『日本人』の歴史的責任を痛烈に感じた」
一歩距離を置いて日本社会を複眼的に見る発想は、この体験に根ざしているかも知れない。
市民集会や反戦集会の講演では引っ張りだこの人気。ブッシュによるイラク戦争や拉致事件をめぐるメディアの偏向報道に厳しい目を注いでいる。
「私たちは、知性や品位のかけらもない、ブッシュの言葉を笑って済ますわけにはいかない。残念なことに、政治指導者としてふさわしい能力を一切備えない男が、現実的には超大国アメリカの大統領になり、勝手気ままで偽りとうそに満ちた『ブッシュイズム』によって、日々、世界が攪乱され続けている」。
先月、早稲田大学国際会議場で講演し、「東アジアの平和と対米関係」について、約400人の聴衆に国際世論を無視し続けて戦争に突き進む米国の単独行動主義の不当性を訴えた。
「米国の正義」は正当か、と厳しく問いかけながら、小森さんは「米国がならず者国家と判断したら、先制攻撃もためらわない時代に来ている」と指摘、「アメリカは、いまや他のいかなる国も挑戦不可能なほどの軍事力で世界支配を遂行している」と断じた。
世界が注視する中で、無差別に殺戮されつづけられるイラクの人々。米国は戦術核並みの破壊力を持つといわれる超大型爆弾を使用し、前次湾岸戦争でも50万人の子供たちを殺したと言われるウラン劣化爆弾を使用した。しかし、テレビを中心としたマス・メディアなど表現の世界が、この戦争を容認する歪み。「ブッシュイズムの米国こそ、イラクで先制攻撃をしかけ、東アジアを戦争の危機にさらす元凶の『ならず者国家』である。しかし、日本の商業メディアは、それをねじ曲げて、『イラクは無法者』、『北朝鮮は脅威』だと煽りたてている」。
世界制覇の野望を遂げようとする時、日本は米国にひたすら追随して、英国やイスラエルのように、アジアでもブッシュの武力攻撃を助けようとやっきになっている、と小森さんは喝破する。
「アジアにおける軍事的危機を煽り立てているのは、ブッシュ政権だ。しかし、日本政府はそれを隠して、北朝鮮を仮想敵として描き出し、国民の不安を煽り、日米軍事同盟の強化と軍拡路線を浸透させてきた。さらに『日本は北朝鮮問題があるから』とイラク戦争を支持する口実に利用している」
「北の脅威」への不安感が国内で漠然と広がりつつある現実。これについて、小森さんは一人一人にこう問いかけていると語る。「あなたは何が不安?その不安の原因は? その不安の責任は誰に?」と。そうすることで日本で流れる「北の脅威」が、実は極めて意図的な情報操作によって作られたものであることが理解されるようになる。
「南北朝鮮の和解と統一への動きにも米国はことごとく敵対してきた。北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)から離脱宣言をしたが、唯一の被爆国・日本から見れば、この条約は、米、英、ロシア、仏、中国の5大国以外核保有をしてはならない、という不平等条約である。同時に、その第6条では、5大国が核軍縮の努力をするということが明記されているのだから、『包括的核実験禁止条約』と『弾道弾迎撃ミサイル制限条約』を一方的に破棄したブッシュ政権こそが世界の指弾を浴びるべきだ」
ブッシュのイラクへの先制攻撃が始まった3月20日に行われた「中央教育審議会の答申」。小森さんはこれは「戦争ができる国」をめざして教育基本法を改悪しようとするもので容認できないと語る。戦前とは違った「愛国心」教育を導入し、国家による「個人の心への攻撃」をさらに強めるものだと強く批判する。とりわけ「郷土や国を愛する心」を教育の理念に盛り込もうとしていることに小森さんは警戒心を強める。「拉致報道の中で、あたかも被害者が故郷と家族に癒されているかのような映像を意識的に繰り返し流している。これは家族を中心にしながら、国家への忠誠心を育もうとするパイロット版だと思う」
小森さんは「日朝平壌宣言は日本がアジアの緊張緩和に重要な役割を果たす契機となる画期的なできごとであった」と高く評価する。「日本の商業メディアが、拉致問題を餌食にして狂騒的な反『北朝鮮』キャンぺーをして、日本の独自外交を潰した」との思いも強い。
「侵略戦争と植民地支配を美化して、ひたすら対米追随の道を進もうとするナショナリストたちの野望に終止符を打つ市民運動を、反戦運動と連動して広げていきたい」と使命感を燃やしている。(東京大学教授、小森陽一さん)(朴日粉記者)
[朝鮮新報 2003.4.23]
http://www.korea-np.co.jp/sinboj/j-2003/j05/0305j0423-00001.htm