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在米ジャーナリスト堀田佳男 のワシントンDCコラム、「急がばワシントン」よりネオコンの親分リチャード.バール氏に関する部分を転載
●パールの中のヒトラー[2003/02/27]
イラクとの戦争が近づきつつあるので、ワシントンでは今、その方面で仕事をする人たちの動きが慌しい。政府関係者はもちろん、政策の提言が仕事であるシンクタンクの学者も、現状分析の発表やマスコミのインタビューなどに追われている。
25日早朝、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所、略称「AEI」と呼ばれる保守系シンクタンクでイラク問題の会合があった。「ブラックコーヒー・ブリーフィング」という呼び名で、イラク問題だけにしぼった会が最近始まった。仕切っているのはリチャード・パールというレーガン政権時代の国防次官補である。
実は、このパールこそがいまワシントンでもっとも「旬」と言える人物なのである。シンクタンクに席を置く一方、国防政策諮問委員会というペンタゴンのラムズフェルドやブッシュに進言する集まりの委員長も務めている。この会にはキッシンジャーも入っている。さらに、ブッシュ政権を語るときのキーワードとも言える「ネオコン(新保守派)」の急先鋒がパールなのである。彼がブリーフィングで何を言うか、前日から遠足に行く前の小学生のような心持でいた。
早めに着いた私は、コーヒーを飲みながら席についていた。だが開始時間になってもパールの姿がない。司会者はパールがいないまま、時間通りにブリーフィングをスタートさせた。10分ほどしてから申し訳なさそうに静かにドアを開けて初老の男性が入ってきた。だぶついたダークスーツに緩んだ赤のネクタイをつけている。頭部にはホワホワっとした白髪が流れる。銀座や六本木というより西武新宿線沿線の駅前にある焼き鳥屋の暖簾をくぐった疲れた経理担当のサラリーマンという感じであった。目つきもトロンとしている。アメリカの国防政策に大きな影響力をもつ人物にはどうしても見えない。
「外見の判断がこれほど当てにならない人物もいない」
話を始めたパールの印象である。「疲れたサラリーマン」は鋼鉄の意志とでもいえるほど力強い口調でイラク軍事攻撃の必要性を訴えはじめた。国連査察団がいくらイラクで活動をしても何も見出せないと繰りかえす。そして、伝家の宝刀とでも呼べる話を持ち出した。ユダヤ人であるパールはナチスドイツのことに触れたのだ。
「いまのイラクはホロコースト時代の強制収容所に似ている。ナチスドイツのテレージェンシュタット収容所(プラハ)に、国際赤十字が査察にきたことがある。ナチスは査察団に対し、強制収容所など存在しないと言い張った。収容されていたユダヤ人には普段、着させない服を着せ、オーケストラで音楽さえ聞かせてとりつくろった。収容所でのその演奏会が最初で最後の音楽会であったことは言うまでもない。査察団が帰ると、またもとの収容所に戻った。そこで何万ものユダヤ人が死んだ」(4万人と言われる)
パールは、国連安保理はすでにイラクに対して17もの決議案を採択しており、ほとんど遵守されていない中での18個目は必要ないと語気を強める。「17個あれば十分だろう」。私はパールがヒトラーとフセインをダブらせているように思えてならなかった。いまフセインを抹殺しなければ、第2のホロコーストか「9.11」が起きるかもしれないとの思いが言葉の節々から読める。その気迫はすさまじかった。それはユダヤ人だけが抱く恐怖心であり憎悪なのかもしれない。
アメリカはイラクへの先制攻撃を「プリベンティブ・ウォー(予防戦争)」と呼ぶ。日本やヨーロッパでは、さかんに石油利権や軍需産業という言葉を使ってこの戦争の理由付けをする。だが仮に、それが攻撃理由の一部だったとしても、パールの心中では純粋にフセインという第2のヒトラーを退治することを戦争の第一義にしているように思えた。ブッシュはいま、彼のような過激なアドバイザーを周りに配している。 ブリーフィングの後、個人的に話をする機会があった。私が一国主義と先制攻撃の邪悪性を口にしても、パールは聞く耳を持たなかった。
http://www.yoshiohotta.com/washington/2003/washington0302.html
●再びパール、そして真意〔2003/03/27]
その日は早朝からイラク情勢のブリーフィング(説明)を受けるため、保守派の牙城であるアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)というシンクタンクに出向いていた。AEIはホワイトハウスの北東約1キロのオフィスビルの中にある。ファラガット・ウェストという地下鉄の駅を降りて、17丁目を北に向かって歩くと柔らかい春風が頬に心地よい。
ビルの正面玄関に近づくと、プラカードを手に何か叫んでいる女性たちがいた。そばまでいくと「ダンプ・リチャード・パール」と連呼している。リチャード・パールはその日のブリーフィングの主役である。ダンプというのは「投げ捨てる」という意味だが、「殺す」という語意もある強烈な単語だ。以前、このコラムでも反戦活動家に触れたが、叫ぶだけでは戦争は終わらないしブッシュの考え方も変わらない。私も戦争に反対するが、彼らは路上で声を張りあげる代わりに現実的な「反戦政策」を実践できる力を備える必要がある。まして戦争が始まってしまった以上、アメリカが歩むコースを反転させることはミシシッピ川を逆流させることくらい難しい。それでも戦争が半年以上続き、米英軍の戦死者が1000人を越える戦況になったとき、川の流れの向きを変えるチャンスが生まれるかもしれない。
反戦活動家の配ったビラには、ネオコン(新保守派)のボスであるパールは、「ブッシュ政権外の人物としては、アメリカを戦争に突入させた最大の責任者」と記されていた。その記述はおおかたあたっている。25日の説明会で、パールは米政府が戦争にまい進した理由を2点に絞った。それはメディアからの質問頻度の「ナンバー1」と「ナンバー2」の答えとさえ思えた。
「アメリカ軍は多くの場合、イラク市民に(フセインの圧制からの)解放者として受け取られている。戦争が終わったとき、イラク市民は『解放』という本当の意味を十分に感じることができるだろう」
これは「アメリカ主導の戦争が本当にイラクを解放するための戦争だと思うか」という質問の答えである。聞こえはいいが、パールは今回、2月のブリーフィングで述べたイラクの大量破壊兵器の脅威を一掃するためという点には一言も触れなかった。さらに「大御所」は戦争反対派がもっとも口したがる「石油のための戦争」という問いの答えも用意していた。
「アメリカ軍の任務のひとつはイラクの油田を死守することだ。なぜか、答えはただひとつ。イラクが新しい政権を築き、国家を建設するときに使うからだ。(イラクの原油)はイラク国民と国家のためのものである。アメリカは関心がない。戦後、原油はイラク国民のために産出され使われるだろう」
ここまではっきりと断言されると「ウソ」という二文字が背後に見える。私はネオコンが抱える戦争理由は複数あると思っていた。大量破壊兵器の脅威、石油、軍需産業、中東の安定だ。その中でも大量破壊兵器への脅威が比重としては最大だろうと推断していた。2月27日付コラムで書いたパールのナチスの話に、多少なりとも動かされたこともある。さらに「9.11」以降、アメリカがテロリズムの脅威に晒され、危機感が国民の中にあることを体現していた。
「しかしパールよ。今日の説明はナンゾヤ」
石油が戦争を始めた理由の「小さな柱」として立つことは当然というより、必然である。その理由を完璧に否定したことで、彼の理由付けは失墜した。言葉のレトリックとして「石油が背景にあります」と認めたことに等しい。ノーベル経済学賞にもっとも近い経済学者といわれるポール・クルーグマンでさえニューヨーク・タイムズで「石油は戦利品」とはっきりと書いている。
ブッシュ政権の戦争の意図がおのずと知れた日となった。
http://www.yoshiohotta.com/washington/2003/washington0303.html