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短編小説 - 地雷を踏んだ男 [作者:D.IKUSHIMA氏] 【ヒトゴトで無くなる瞬間】
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投稿者 ファントムランチ 日時 2003 年 4 月 04 日 22:37:28:oswAM6lqBSCW6


『地雷を踏んだ男』


地雷を踏んだ。

最悪だ。
やっぱり海外旅行なんかするべきじゃなかったのか。
いや、旅行だけならともかく、行き先を変えるべきだった。
流行りのイタリアやハワイ程度にしておくんだった。
よりにもよってこんな場所に来るとは。
そして今、私の足の下には地雷がある。

私には軍事関係の知識が多少ある。
別に軍隊に入っていたというわけじゃない。ただの戦争マニアだ。
その系統の本もかなり持っている。部屋もプラモデルで埋まっている。

初めての海外旅行だった。
今まで国内ですら、ほとんど旅行などしたことがなく、
ずっと家でプラモデルを作っていたりした。
そんな私にも妻と呼べる人がいる。
大学時代に知り合った幸子だ。
彼女は多彩な趣味を持っていて
本もよく読み、旅行にもでかけ、友達も多かった。
そんな彼女がなぜか私とつきあっていた。
そして結婚した。

すぐに子供が生まれた。
私は「直人」と名前をつけた。
今から六年前の話だ。
直人は元気ないい子に育っている。
これも幸子のおかげだ。私だけではとてもこうは育たなかっただろう。

私はコンピュータ関係の仕事を見つけた。
しかし定時に帰れる事はほとんどない毎日だ。
直人が起きている間に帰れる事も少なく
土日も仕事で出かける事が多かった。

直人とキャッチボールの約束をしていた日曜日も
急な仕事が入って遊んでやれなかった。

幸子の勧めで、私はまとまった休みを取った。
私は家族でどこかにでかけようかと言ったが
今回は一人でゆっくりした方がいいと言われた。
働きづめの私にゆっくり休むようにとの心づかいだった。
そこで、かねてから行ってみたかったところへ旅行に行く事に決めた。
かつて激しい戦争があった場所だ。
まだ処分されていない戦車や対空砲が、そのままの形で残っている。
この目で軍事兵器を見れる場所なのだ。
これはマニアの間でもあまり知られていない情報だった。

初めて海外にでかける不安は大きかったが、
旅行好きの幸子がほとんど準備してくれた。

そして無事、この国まで来る事ができた。

だが、そこで不運な事が起きた。
戦車などが置き去りにされている場所までは歩いていかなければならない。
いや、普通は歩いても来れないのだ。
兵器が残っている場所は閉鎖されている。
だが閉鎖といっても名ばかりで、ただでさえ人の少ないこの地域では
見張りなどいないのと同じなのだ。

私は閉鎖されている地域に入り込み、
裏で仕入れた情報を元に、その場所まで歩いて向かった。
だが、ある時右足に妙な感触を感じた。
乾いた土を踏んでいる左足に対して、
右足はなにか硬い異物感がある。
私は嫌な予感がして動きを止め、足元を見た。
そしてサッと顔が青ざめるのを感じた。

間違いない。地雷を踏んでいる。

今、右足の力を緩めると爆発する。
私はゆっくりと左足を引き寄せ、直立した姿勢をとった。
兵器の知識はあるが、解体などはとてもできない。
いや、そもそもプロであっても一人で処理できるものではないだろう。

戦車が残っているという事は地雷も当然残っている可能性があったのだ。
しかし気づくのが遅すぎた。
今となってはどうしようもない。

助けを求めようにも周りに人影はない。
だいたいこんな所に来るような奴は、私みたいなマニア以外にはいないだろう。

荷物の中は兵器の資料とカメラ、それにフィルムだけだ。
全部合わせても大した重さにはならない。
私の代わりに地雷の上に荷物を置いて逃げる事などはできそうもない。

たとえこのままじっとしていても食料も水も用意していないのだ。
長くは持たないだろう。
それにずっと立ったままいるのは、せいぜい何時間かが限界だ。
絶望だ。死を待つしかないのか。

日本には来週帰る事になっている。
来週になって私が帰らない事で捜索が開始されても
それでは遅すぎる。

だが、もしかしたらこの地雷は不発かもしれない。
何年も前のものだ。その可能性は十分にある。
不発の場合、火薬は残っていても信管が働かないので爆発はしない。
実戦で地雷を設置した直後でも、不発の地雷が混ざってるぐらいなのだ。
何年も経った今では不発の可能性も高くなっているはずだ。

だがまだ地雷として機能するかもしれない。
現に、外国で地雷を踏んで死んだ子供のニュースを見た事もある。

この地雷はどっちだろう。
私が踏んでいるこの地雷は。



だめだ。もう限界だ。
喉もカラカラだし、疲労もかなりのものだ。
とても立ってはいられなくなってきた。
辺りも暗くなってきている。
このままだと明日まで立ってるのはとても無理だ。
ウトウトして眠ってしまいかねない。

私は決心した。
右足をどけてみよう。
不発かもしれないし、爆発するかもしれない。
しかし、このままじっとしていたら確実に死んでしまう。
それなら自分で運命を決めよう。
爆発したら、それも運命だ。
助かったら、それも運命だ。

額から汗が流れてくる。
口の中も乾ききっていて苦い。

私は背中に背負っていた荷物を地面に降ろした。
今は勇気を出すしかない。

もし、無事日本に帰る事ができたら直人とキャッチボールをしよう。
今度の日曜にはたとえ仕事が入っても、みんなで遊園地に行こう。

だが、もしこの地雷が爆発したら、今度は鳥に生まれ変わりたい。
部屋の中に閉じこもる事もなく、思いきり空を飛びまわれる鳥に。
地雷を踏むような事もない鳥に。

そして私は覚悟を決め、ゆっくりと右足を前へ踏み出した。

 
 
 http://www2.117.ne.jp/~Clover/Novel/Bom.htm


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参考

「知っていますか?地雷の被害」より
 単独行動中に事故に遭った民間人は誰にも看取られず、一人事故の現場で息を引き取るケースも少なくありません。世界有数の地雷専門のNGOに成長したマインズ・アドバイザリー・グループ(MAG)の創設も、元イギリス軍人のレィ・マグラスさんが1987年アフガニスタンの山中で羊飼いの少年の遺体を目撃したことがきっかけになりました。旧ソ連製の蝶々型地雷に足を吹き飛ばされ、何時間も出血が続いた後、ひとり死んでいったのです。

 http://homepage1.nifty.com/cmc/mine/01.html


★イラク攻撃では、米英ら侵略軍側は圧倒的な兵力で首都バグダットを包囲しようとしています。空からは猛烈な爆撃を加え、陸からは先進のハイテク兵器を装備した兵士や戦車を大量に投入し、力でねじ伏せる作戦をとっています。敵戦車などには劣化ウラン弾さえ撃ち込んでいます。
 正面からの総力戦では到底かなわないイラク軍側は、首都防衛の際、敵の戦車や装甲車の進撃を阻止するためには、迫撃砲などによるゲリラ作戦のほかに、比較的安価である「地雷」に頼るしかありません。バグダット南部には大量の地雷が埋め込まれていると考えられます。
 米英側の物量に物言わせた大量殺戮攻撃を「しかたがない」と言っている人々は、それに抵抗するイラク側がせめて地雷を仕掛けるのを理論的に非難できるでしょうか?
 バグダット南部は戦争が終わったあとも永きにわたって、地雷とクラスター爆弾の不発弾と、劣化ウラン弾による人体の後遺症に悩まされ続けるでしょう。そしてその残酷さと恐怖は、遠い国に住む我々にはけっして実感できるものではありません。

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